不思議な事である。歳を重ねるごとにもう一つの感情が頭をもたげてくる。最初にそれをはっきりと自覚したのは今からおよそ二十年前、五十を過ぎた頃だ。
私をはじめ地元に残った者たちが中心となって高校の同窓会をやった時のことである。数十年ぶりのことでもあり、折角ならば大々的にやろうということになって我々の学年全員に声をかけることになった。集まったのは我々地元の人間を中心に全卒業生のうちのおよそ四分の一といった具合である。とはいっても団塊と言われている世代である、相当な人数が集まることになった。思い切って近場の温泉ホテルで一泊二日の大宴会を催すこととした。
当日は母校に頼みこんでグランドを集合場所にし、朝から数台のバスに乗り込み目的地に向かった。はじめのうちこそよそよそしかった参加者たちであったがホテルに着く頃にはあの懐かしい青春時代に戻ったかのように打ち解けあっていた。そして、その勢いのまま宴会を迎え大いに盛り上がったものだった。
二次会でのカラオケも大盛況であったが午前零時を前にすると皆急激に静かになってきた。さすがに寄る年波には勝てないといったところなのであろう。お開きにして各自部屋に戻っていった。私の部屋は幹事ということもあり、幼なじみでもある山田との二人部屋だ。山田は幹事として私とは別グループの二次会の面倒をみてるせいか、部屋に戻ってきた時には不在であった。あいつは酒好きな奴だし、どこかでまだ盛り上がっているのだろうと思っいながらこれまでの収支計算をはじめた。しばらくすると襖の向こうにあるドアの開く音がした。山田が戻ってきたのだ。あいつのことだから相当酔っぱらっているだろうしもう収支計算は明日にして今夜は寝るか、と思ったやさき、開いた襖の向こう側にいたのは山田ではなかった。
「よう、久しぶり」その男は満面の笑みを浮かべながらそう言ってきた。山田かと思っていたところに、別の男が入ってきた驚きとあいまって、私はあ然とした表情のまま硬直してしまった。そんな私の表情を見て察したのだろうか、その男は温和な表情で「俺だよ、佐々木だよ、久しぶりだったとはいえ忘れたなんか言わせないぞ。俺はこの何十年もの間お前の事をいっときも忘れたことなんかなかったのだからな。」と言ってきた。それを言い終わった私を見つめるその目は、表情こそは温和そのものなのだが、瞳の中に煮えたぎるような欲情が露わに見て取れた。
(佐々木・・え、お前がか、お前が佐々木なのか)あの頃とはうって変わったその容姿からはまったく結びつかなかっが、高校時代の私が知っている佐々木といったらあいつしかいないのだ。
「え!あの佐々木か?短距離のあの佐々木なのか。」
私はその男に向かってそう言った。高校時代、私は陸上部に所属していて、私は長距離をやっていた。そして同じ部で短距離をやっていたのが佐々木である。
「そうだよ、その佐々木だよ。やだなぁ、まさか俺の事を忘れていたのか、そりゃないぜ。でも仕方はないか、見ての通り俺もすっかり親父になってしまったしな。でもなあの日以来俺はなぁ、お前の事を一度だって忘れた事はないのだからな。」そう言いいながら佐々木は部屋の中に押し入るように入ってきた。
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