読切小説
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魔の快楽 T
まだSNSはおろか携帯さえ
ない時代の話です。

「男と男のマッサージ」という三行広告の切り抜きを
ポケットから取り出し、震える声で公衆電話から電話をしたのが3時間前であった。さすがに金曜日の夜だけのことはあり、指定された最寄り駅は大混雑していた。都内でも有数のターミナルなので当然の事である。で、そこから歩いて5分も経たずに着いたその場所は、それまでの喧騒が嘘のような、街灯も殆どない安アパートが乱立している場所であった。現在は都市開発で巨大な商業施設が建ち並び面影は皆無だが、今調べてみると、どうもその近辺は近くにある有名なゲイタウンのベットタウン的な場所だったらしい。

その頃の私はまだ性の対象が女性であった。が、興味がどんどんと変化していった時期でもあった。女性を相手にセックスをしても疲労感しか感じられなくなっていたのだ。そして、そんなある日こんな夢を見たのだ。

薄暗い部屋で私は全裸で寝ていた。スゥーと扉が開き誰かが入ってきた。その人影は音もなく私に近づいてきて私の体を触りはじめた。私は金縛りになっていて、されるがままである。それは夢であることは潜在意識の中でもわかっているのだが、その指先の感触がとてもリアルに伝わってくる。乳首を摘まれている。その指先にグッと力が入ると刺激がダイレクトに勃起している性器に伝わってくる。夢ではあるが実際に性器がいつも以上に激しく勃起しているのもわかる。
蠢くように私の体を這い回る無数の指先から伝わってくる妖艶な刺激に硬直した性器が否応なく反応させられてしまう。だがやはり体は動かすことができない。私は完全に逃げ場を失っているので全身に伝わる性感だけが益々増幅していってしまう。硬直した自分の性器と亀頭から止めどない快感だけが波状的に全身へと注ぎ込まれてくる。「もう無理だ!」と念じた瞬間、上に覆いかぶさっている人影が私の顔を覗き込むように見下げていた。私はその顔を見て言葉を失った。それはまさしく自分自身なのだ。

そこで夢が覚めた。静まりかえった真夜中の薄暗い自室に一人だけだ。体中が敏感になっているのがよくわかった。自分で自分の乳首を触ってみる。とても感じてしまった。こんなに感じるものなのだと初めて知った。暗がりに目が慣れると
ベットの横にある姿見鏡に映っている自分と目があった。私は何かに導かれるように全裸になるとその姿を鏡に映した。さっきのように乳首を触ってみた。鏡に映る乳首が伸びたり転がったりしている。自分の指先の感触と乳首に伝わる性感と鏡に映る弄ばれる乳首がどんどん一体化してくるのが分かる。感触と性感が目の前で混ざり合っているのだ。鏡の中で悶えている自分の股間をみると物凄い勢いで勃ってるのが見える。乳首から伝わってくる性感が本当にダイレクトに伝わってきているのだ。夢と一緒じゃないか! 

こんな風にして自分の性器を見るのなんて生まれて初めてであった。びっしりと生えた陰毛、少し伸びてダラリとしている睾丸、そして亀頭を丸出しに脈打ちしながら反り勃ってるいる性器。そこから目が離せなくなってしまっている。自分でも不思議な感覚だ。これは確かに自分の体の一部なのだ。これまでもずっと普通に付いていて、特に意識もせず自然なものとして特別な感覚など持ったこともなかった。どうしたことなのだろう? 今は戸惑いと快感がせめぎ合っているような感じがする。

鏡の中の勃起した性器に触れてみる。とても熱く脈が凄い。握ってみる。握ったとたん体中を性感が走り抜ける。少し上下に扱いてみる。これまで体験したことのないほど張りつめた亀頭のカリに親指と人差し指で作った輪っかの部分が擦れるように当たる。膨張し張りつめた亀頭の柔らかな粘膜は、通常の何百倍もの感度になっていて、そこに手指が触れる度に研ぎ澄まされた強い性感を全身に送り込んできた。

すぐに射精をした。鏡の中の亀頭の口から ドビュッ と音が聞こえてくるような
射精だ。鏡の中では最初の精液が亀頭の口から私の頭上にまで一本続きの勢いで飛び出したのが見て取れた。ドビュッ、ドビュッ、ドビュッ、尽きることがない射精。そのままベットの上にのけ反りながら仰向けに倒れこむ。勢いは収まってきたがまだ出る。精液が唇にまで飛び散ってきた。

これが私にとっての原体験になった。性の対象が変な話しなのだが自分になってしまったのだ。潜在的には何かそんな部分はあったのかもしれないが、この時のこの夢か、この射精が、それをしっかりと自覚させたのであった。だが合わせて
自慰だけではまったく満たされないことも自覚した。理由は分からないが、あの夢うつつに感じた強い性感がまったくないのだ。この虚しさを埋めるために無性にセックスがしたくなった。おそらくあまり激しく
求めたせいで彼女に逃げられた。風俗にも何度も行った。私の激しさを見て「お客さんはこっちの世界が合ってるのよ」と風俗嬢にそう言われアナルを開発された。体だけはどんどん敏感になっていくが、満たさる というところからは何故だが離れていくような感じがした。

ある通勤時の山の手線の車中である。毎日がラッシュで揉みくちゃの世界だ。私はいつものようにいつものドア際に乗車した。相変わらずの人の壁だ。目の前には珍しく青い目をした大男たちが数人で立っていた。旅行者なのであろう。電車が動きだしてすぐの事であった。私の尻に何かあたっているのに気が付いた。感触としては折りたたみの傘といった感じだ。とても違和感があるので体をずらしそれをよけた。よけたはずなのにすぐにくっついてきた。何回かそれを繰り返しているうち乗客の圧力が私の方にかかってきて身動きが取れない状態になり、違和感も私の尻の割れ目にピッタリとくっついて離れなくなった。ズボン越しにどんどんと熱が伝わってくるのが分かる。脈流もはっきりと伝わってきた。

その時の私は一番ドア側に車窓の外側を眺めるような姿勢で立っていて、後から押される大勢の乗客の圧力を押し返すよう、両手をドアに突いて、顔がドアに押しつけられないよう踏ん張っているといった状態であった。と、そんな私の両腕の脇の下側をすり抜けるように背後から両の手が伸びてきた。その手は初夏の薄手の服装をしている私の左右の乳首をすぐに探し当てると、なんの遠慮もなくまるでつねるかのような強さで摘み上げてきた。こんな刺激は初めてだ。

満員電車の中で、私は押しつぶされないよう両手をドアについて踏ん張っている。その背後から見知らぬ大男がその体重を預けながらまとわりつき、私の尻の割れ目に大きな男根をはめ込み両乳首を弄んでいる。私はまったく身動が取れない。背後からは荒い息づかいが否応なしに伝わってくる。羞恥と恐怖に心は覆われているのだが、その恐怖が欲情へと変化してくるのが自分でも分かる。背後にピッタリとくっついている
その全身から、つねられながらグルグルとこねくり回されている乳首から、尻の割れ目にはまり込んだ大きな性器から、その男の欲情が次々と注ぎ込まれるのが
手に取るように分かってしまうのだ。男はそんな私の変調を機敏に察知したのだろう、片方の手を私の股間にまわすと、ズボンの上から性器を触ってきた。

その機敏な動きは、おそらく相当な場数を踏んできたことを思わせる。私の微妙な変調を瞬間に感じとり、まだ柔らかな性器を揉み始めたのだが、あっという間に勃起させられてしまった。その瞬間、私の恐怖は
欲情へと完全に変わってしまった。その大男に身を委ねたのだ。なにがどうなっているのかまったく分からないが、全身が快感に覆い尽くされたのだけが良くわかった。大男から発せられる欲情の情念に呑み込まれ
羞恥ですら快感に変えられてしまったのだ。

快感のうつつのうちに電車は駅に着いてしまった。ドアが開き私は大勢の乗客とともにホームへ吐き出された。目眩のような雑踏に揉みくちゃにされながら振り返ると、金髪の大男が私の
目に向かって軽いウインクをして、連れだった仲間たちとそそくさと遠ざかっていく。その仲間たちも振り向きざまに手を振ってきたり笑いかけたりしながら、欲情の中へ私を引きずり込んでいった大男の肩や尻を叩いてはしゃいでいた。仲間内で私をその気にさせることが出来るのか賭けでもしていたのだろう。そう思うとさらに欲情が高まった。数人の大男に取り囲まれ、押さえ込まれて身動が取れない中、その大男たちの複数の視線に晒されるまま、逃れようのない波状的に押し寄せる性感に呑み込まれてしまったのだ。あの視線の中で、欲情に満ち溢れた熱い視線の中で・・・

私が求める欲情が分かったような気がした。あの電車での出来事を何度も夢みるようになった。あれが週末の会社帰りだったらと妄想もしてしまう。複数の欲情を露わにした目に晒されながら、私一人が押さえつけられ、身動き一つ出来ず、痴態を演じ、性感に疼き、悶えながら、のけ反りながら、ひたすら快楽に溺らされ、弄ばれる。あの目、あの視線、アノ目つきを思っただけで性器が勃起してしまう。射精が出来てしまう。


あの視線を求めて、やっと辿り着いたのが薄暗い路地にあるこの怪しいアパートなのだ。抑え切れない欲情に胸が押しつぶされそうだ。指定されたアパートを目の前にして緊張も激しい。欲情と緊張が綱引きをしている。ここに足を踏み入れたら、これまでの何かを失ってしまうのではないか? 戻る事が出来なくなってしまうのではないか?
私のこれまでのアイデンティティがすべて失われてしまうのではないか? 頭の
中で色々なことが渦を巻きはじめた。欲情は激しいが躊躇はもっと激しい。「やめた」何かを失う恐怖が勝ったのだ。早く帰ろう。そのまま振り向くと暗がりの道を早足で歩き始めた。実はここまで来て、やはり行くのをやめたのはこれで3回目なのだ。今日もまたこのまま自分のアパートに帰り、一人で射精をして満たされない虚しさを抱えながらため息をつくのだろう。

(今日もまたこれか!) ためらいと安堵が混じり合いながら思った。しょうがないのだ、これが自分なのだから。そう思いながら大通りを目指して、この暗がりの路地を早足で歩いた。

「オイ、オイ!」突然の声が響いてきた。それは私を呼び止める声だ。


26/04/23 12:53更新 / KAGE

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