■ 窓 - 窓 2
それからの毎日は、部屋から彼を観察することが日課となった。彼の事は何でも知りたかった。ただの忙しい日常が急に目的が出来て輝いてきたように思えた。彼の秘密の行為を録画したかったが、ビデオは当時大変高価だったので勤務先から上司に勉強会の撮影をしたいと頼み込み、週末のみ借りることができた。盗撮は犯罪だし、今思うとストーカー行為だ。まだ若い私は頭に血が上ってしまい歯止めがきかなかった。ましてや誰にも相談できない片思いの恋だったし。平日休みの時に観察を続けると彼の日常が段々分かってきた。毎朝8時頃出勤し夜は大体6時には帰宅する。いったん帰ってから着替えて出かける日が有る。どこに行っているのか気になっていた。一度スーパーですれ違った時、彼と目が合いドキッとした。私がしている事をすべて見透かされているような気がしたのだ。作業服に「〇〇建設」と私でも知っている大手の建設会社のロゴがあった。彼が働いている姿を想像して胸が熱くなる。彼は帰るときに夕食の買い物をして自炊しているようだ。毎日テレビを見ながら晩酌し缶ビールを1本飲む。自分も早く帰れた日は時間を合わせて一緒に夕食を食べる。もはやかなり重症の恋、しかも相手は手の届かないノンケ。女で生まれていれば、こちらから告白することだってできるのに。どれだけ好きなっても、その先は無いのかと思うと激しく落ち込んだ。もう1か月ほど観察しているが、恋人らしい人が訪ねて来たことが無いのが唯一の救いだった。付き合った経験もなかった自分には初めて恋をした男だったのである。
名前を知りたくて彼が外出したのを確認してからアパートの表札を見に行った。彼の名前とポストの郵便物を見て一人暮らしなのを確認した。玄関側は通りと反対側だったので、洗濯機が玄関の横に置いてあるのに初めて気付いた。そっと周りを見渡し中をのぞくと洗濯物がたくさん入っている。Tシャツを手に取り彼の匂いを味わう。ムッとする男の体臭、それに男盛りのフェロモンが混ざり、たまらなくいい匂いだ。下の方にパンツが何枚かあった。もう我慢できない。手に取って観察し顔を近づけ匂いを嗅いでみる。小便の匂いと朝からオナニーしたのか精液の生乾きの匂い、それに汗と体臭が混ざりあった生身の男の正直な匂いであった。自分の部屋に持って行こうか迷ったが、さすがにそれは犯罪だと思い止めることにした。勝手に他人の洗濯物を物色するのも、すでに犯罪だなと思い我ながら苦笑してしまう。急いで部屋に戻り彼の顔を思い出しながら、ガチガチに怒張した一物を扱き、しばらく自慰にふけってしまった。終わってから冷静になると罪悪感と怖さで激しく落ち込んだ。完全にストーカー化しているが、その時は自分には全くその自覚がなかった。ただ彼の全てを少しでも知りたいだけだったのだ。だが毎週土曜日の夜、その日だけは彼は私のものだった。最大にズームしながらビデオを撮り一緒にマスを掻く。彼のペースに合わせて一緒に扱き、そして一緒に果てた。
ある土曜日、小学生と中学生くらいの男の子が数人彼の部屋に来ていた。えぇ!子持ちなの?と思ったが彼のことを先生と呼んでいるのが聞こえた。1時間ほど部屋でお菓子を食べたり話をしたりと彼も楽しそうだ。一人は彼の股の間に入り一緒に漫画を読んでいる。あんな優しそうな顔するんだなと思い、ちょっと子供たちに嫉妬してしまった。何か教えてるのかな思っていたが、翌日窓の小さなベランダに剣道の防具が洗って干してあるのが見えた。あぁ、剣道の先生なんだ。週何回か仕事の後出かけるのは、子供たちを教えに道場に行ってたのかもしれない。防具って洗えるんだなと感心して見入ってしまった。彼が防具を付けて試合をしているのを想像してまた胸が熱くなった。剣道で鍛えた体、どうりですごい体だ。剣道なら足腰を使うし肩から腕の逞しい筋肉の付き具合も納得してしまった。剣道ってあんなすごい体になるのか。でも昼間は剣士でも、夜は性欲を持て余したただの男だ。そのギャップを考えると人間味が増して前よりもっと好きになった。