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窓 
1981年、私は何とか留年することなく医学部を卒業し国家試験に合格して大学病院で研修医として働きだした。まだ慣れぬことばかりで勉強と仕事を覚えるので必死だった。休日は恋人もいなかったので、勤務の疲れでぐったりしてしまい寂しく一人で過ごしていた。だが今と比べると日本は、全てにおいて希望に満ちた時代であった。

 住んでいたのはワンルームマンションの6階で最寄駅から徒歩5分くらいと近い。もともと大学には少し遠く30分位かかるがここから通っていた。卒業を機に東京の大学病院の近くに引っ越しを考えた。しかし東京は家賃が高く奨学金の返済も有ったので、3万6千円と当時でも破格の安い家賃が魅力的だったのである。新築だったので綺麗だったし事故物件でもない。不動産屋が「この物件は、夜が賑やかなんです」と意味深な説明をしたが、実際住んでみるとその意味がよく分かった。駅から続くメインの通りとその道と平行に走る通り沿いにこのマンションは建っていた。その通りは、いわゆる風俗街で、夜になると客引きの男やホステスなどがいっぱい立っていた。週末金曜日の夜は酔っ払いの大声やホステスの客引きの声、カラオケの大音量など窓を閉めても聞こえてくる。駅周辺には、成人映画館まであるいわゆるあまり治安のよくない町であった。すぐ引っ越そうと思っていたが、やはり格安の家賃と引っ越しの面倒くささもありそのまま居続けてしまった。人間て凄いなと思ったのは、1か月もすると慣れてしまってさほど気にならなくなった。かえって静かな環境より勉強に集中できたのだ。

 その日は、8月の蒸し暑い土曜の夜だった。帰りが遅くなり夕食を済ませ、風呂から上がるとすでに22時だった。部屋は角部屋だったので窓が2つあり、大きい窓のカーテンを閉め、続いて小さい窓のカーテンを閉めようとしたときである。小さい窓側に道路を挟んで2階建てアパートが立っている。下がスナックで上に部屋が2つあり賃貸になっているようだ。左側の部屋の窓が全開に開けてあり、かなり高低差もあったので私の部屋からは見下ろす感じになり中が丸見えであった。まだこの当時はエアコンの無い部屋も多く、真夏の夜は窓を開け扇風機で凌ぐ家も多かったのである。その窓は闇の中で切り取られたかのように輝き、美しく浮遊しているように見えた。

 住人の姿が見える。風呂上りなのか、全裸のままベットに横向きになりテレビをみている。顔は良く見えないが、見た所40前後のデカい男だ。180cm以上はありそうで、ガッチリとした体格で太い太腿と大きな尻、分厚い胸には胸毛が見える。男盛りの雄のフェロモンが匂い立つのが遠くからでも分かった。よく見ると逞しい腕であのストロークが見える。男なら誰もがやってる自己処理だ。腹や腰が手の動きに連動して小刻みに動いている。まさに自分の理想の男が目の前のアパートでマスを掻いていたのだ。私の一物も直ぐにガチガチに怒張し痛いくらいになった。すぐに部屋の電気を消しカーテンを閉め急いで双眼鏡を持ってくる。少し窓を開けじっくりと息をひそめ観察する。エロビデオを見ているようで顔も良く見えてきた。坊主ですごい体、顔も自分のタイプだ。仕事で自然に付いた筋肉というより現役で何か運動しているような感じの体である。剥けきった男の一物を大きな手で扱いてもまだ亀頭が見える程の大きさだ。こんな良い男が週末に1人でマスを掻いてるなんて。心臓がドキドキし喉がカラカラに乾いた。あんな男に抱かれて一緒に果ててみたいと思い夢中で自分の一物を扱いた。

 リモコンでビデオを巻き戻したりして抜きどころを探しているようだ。男はみんなやり方は同じだなと思い、彼が可愛く見えてきた。息がだいぶ上がってきたようで、かなり汗をかいているのが分かる。手の動きと腰の動きが一段と早くなってきた。あまりもう余裕がない表情で、ティッシュを急いで4、5枚取り一物の横に置いた。あぁ、もうイキそうなのかなと思うと、こちらまで気を遣りそうになる。彼と同時に果てたかったので手を離し息を整えた。しかし彼はもう我慢できないのか、ますます手の動きが早くなる。程なく足をピンと延ばし大きな体をブルッ、ブルッと痙攣させ、腰を打ち付けるようにピストンしながら己のモノを激しく扱き上げた。目を閉じ歯を食いしばりながら、激しい絶頂感で声が出るのを我慢しているようだ。全身を震わせながら、大量の精液が飛び散りティッシュを超えてこぼれ落ちるのが見えた。これが雄の射精なんだなと思いながら、彼が果てる様を食い入るように見つめていた。彼の精液や汗の匂いがこちらまで漂って来るような気がした。最後の快感を味わうかのように、大きな尻がビクッ、ビクッと二度収縮した。私は彼の絶頂時の表情を見た途端に痺れるような快感が脳を直撃し自分の手の中にしたたかに射精してしまった。まるで彼に抱かれているかのような強い一体感を感じ、私はその一瞬で名も知らぬ見知らぬ男に恋をしてしまったのである。