覚醒 1
最近の不摂生と運動不足から身長175cmだが体重が85kgまで増えてしまい、腹が出て自分の一物も上から見えなくなる始末だ。年令は今年58歳になる。ウエストで合わせても、尻から太ももにかけてスラックスがきつく、鏡で見るとデカくてムチムチの尻の形が丸見えだ。冬は上着やコートを着ているのでいいが、夏は薄着になると体のライン丸見えでデカい尻がより強調される。同僚からまたケツが大きくなりましたね、と言われ尻をよく叩かれる。上半身もシャツがパンパンに張って腹回りの肉がはみ出し、下着を着ていても乳首がプクッと張りだしとても恥ずかしい。妻を抱こうとして上から体を重ねるが重いし暑いからしたくないと拒否される。特に閉経後はセックスに興味が無くなったようでまったく相手にされないのだ。私は若いころから性欲が強く、この年になってもまだ毎日悶々としていた。 健康診断で医者からもっと痩せるように指導を受けた事も有り、スポーツクラブに入会し週2回必ず行くようにした。運動して汗を流すと良いストレス発散になるし、何より食事のカロリーを気にするようになった事が大きな収穫である。筋トレの後お風呂に入るのが楽しみで、顔見知りになり会話をするような同年代の会員さんもできた。 ジムの後、親しくなった高橋さんに居酒屋に誘われたので一緒に飲みに行った。酔いが回ると早速下ネタになる。私は同年代の夜の生活は皆どうしてるのかとても気になり「高橋さん、まだ嫁さんとやってるの?」と聞いてみた。「もうそんな気にもならんよ。とっくの前から寝室も別にしてるしね。大野さんまだ嫁抱いてるの?すごいなぁ」 「いやぁ、最近は嫌がられて全然させてくれない」「嫁さん一筋かい。えらいね。他の楽しみも憶えないとだめだよ」「えっ!他の楽しみって?」「俺この間サウナで男にしゃぶられてさ。上手いのなんのって。5分も持たなかった。やっぱり男の方が良いところ分かってるし上手いよね」「え〜!高橋さん男とやったの」「声が大きいよ。目つぶってれば、フェラなんて女と変わらんし。あと腐れもないしね。なんか病みつきになっちゃいそうだよ」「そんな発想は無かったな。そんなに良かったの」「あぁ、口内発射させてくれて気持ちよかった。風俗だと高い金出さないとやってくれないしな。大野さん良い体してるし男前だからそっちの方にもモテるんじゃない。ハハハッ」高橋さんの奔放な体験を聞きながら引くどころか、心臓がドキドキし期待で一物が充血してくるのを感じていた。 高橋さんの話を聞いても驚かなかったのには理由がある。通勤電車で30代くらいの若い会社員風の男に何回か体を悪戯された事が有るのだ。その男は、私が乗る駅から二つ後の駅から乗ってくる。ドアが開き必ず私がいるのを目で確認しすぐ後ろに立つのだ。最初は変な奴だなと思ったが、混んでるし仕方ないと思っていた。しかし何か尻に違和感を憶え意識を集中すると、男の固く屹立した一物が押しつけられているのが分かった。 体をずらしてもまた尻の割れ目に押しつけてくる。男の一物の熱までしっかりと伝わってきた。これは絶対に故意にやっている痴漢だ。それと同時に後ろから顔をよせ私の首筋の匂いを嗅いでいるようで息が荒くなってくる。嘘だろ、こんなデブ親父に何やってるんだ。親父に痴漢するなんて正気じゃない。手を掴んで突き出してやろうと思ったがこんな状況を誰が信じるだろうか。周りから好奇の目で見られ警察に事情徴収されるなんて恥ずかしさで耐えられないだろう。もし会社の同僚や取引先が乗っていたらと思うと怖くなり躊躇してしまった。 私が抵抗しないことに気をよくしたのか、男はますます大胆に私の体を触り始めた。駅に着き人が出入りした時に、男が向かい合わせに移動してきた。ますます混み合い、ほぼぴったり体が触れ合う。電車の揺れに合わせてシャツから浮き出ている乳首を思い切り摘まれた。体がビクッと痙攣し甘美な痛みが私の一物に伝わり不覚にも固く屹立してしまった。すでに私は体への快感に抗えなくなっていた。それと同時に男の欲望の対象になっていることに、不思議と嫌悪感は起こらなかったのである。むしろ堪らなく興奮している自分自身に驚いた。男は手で私の尻を確かめるように下から揉むように触り始めた。それからチャックを降し大胆にも下着の中まで手を入れてくる。玉をやわやわと触り包皮を剥き一番敏感な鈴口に指を押し込みグリグリと刺激してきたのである。あぁっ!と思わず吐息が漏れ、痺れるような快感が走り腰から崩れ落ちそうになる。パンツは先走りでヌルヌルになり直ぐにも暴発しそうだ。男は先走りを手に取りローション代わりにして亀頭の先端を激しくシゴキ始めた。腰ごと持って行かれそうで、このままだと確実に射精してしまう。通勤前の電車の中でイッてはマズいと思い、慌てて体を離しチャックを戻して次の駅でカバンで前を隠しながらなんとか降りた。その男はハンカチで手を拭きながら涼しい顔でそのまま電車で行ってしまった。それから電車の時間をずらしたり車両を変えたりしてやり過ごしたが、何回かまた見つかり悪戯されてしまった。そのうち転勤になったのかいつからか見かけなくなった。男からの痴漢行為に逃げる事もなく、むしろ毎回それを待ちわびている自分に驚いた。そんな経験も有り、高橋さんの話で自分でも気付いてなかったある感情に気付き始めていた。それは、自分の中で何度否定しても消えずに心の奥深くで燻り続けていたのだ。 土曜の夜、妻は友達と旅行で月曜の夜まで帰ってこない。息子が独立し家を出てから外出する頻度が多くなった。それにしても1人がこんなに快適とは思わなかった。テレビを見ていてこの間の高橋さんの話を思い出した。あのサウナに行ってみようかなと思いネットで検索してみた。取り敢えず「男同士の出会い」で検索するとびっくりするほど沢山情報が出てきたのだ。同好の男たちが出会うには特定の場所が有るらしい。すぐに発展場という言葉も出てくる。そんな言い方をするのかと感心した。トイレや公園、専門の映画館やサウナも有るようだ。でも知らずに入ってしまったらどうするんだろう。高橋さんが行ったサウナは隣の駅にあり私も行ったことがある。まったく普通のスーパー銭湯だったが本当にそんな事があるのだろうか。 いわゆる男同士の出会い用の掲示板やアプリもあった。だめだ、こんなの見たら後戻りできなくなる。止めるなら今だ。さっさとパソコンの電源を切って風呂にでも入ろう。しかし私は好奇心に負けてしまった。どんなモノなのか調査の一環で、見るだけならなんの問題も無いと自分を正当化させる。沢山の男たちの欲望の声に圧倒され呑み込まれそうになった。タチ、ウケ、恋人、セクフレ募集などジャンル別に男たちが何を求めているのか分かりやすくなっている。初めて見る言葉はその都度調べた。既婚者も沢山いる事に本当に驚いた。心臓がドキドキし喉が渇き水を飲みに行った。本当にこれが自分の望んでいるものなのか。あんな痴漢になんか会わなければ一生縁がない世界だったのに。そう思いパソコンの電源を落とし風呂に入った。だが一向に興奮は収まらず、なぜか痴漢した男の顔を繰り返し思い出す。電車の中でイキそうになった時、私は男の胸に深く抱き寄せられ激しい興奮で身を震わせていたではないか。あの時確かに私は彼のモノだった。しっかりと抱きしめられた時、不思議な充足感さえ感じたのだ。私の体が快感に抗えず男に完全に屈服した瞬間だったのである。その時の甘美で痺れるような時を何度も思い出しながら全身を痙攣させバスタブの中で激しく射精した。あの男の顔を思いながら自慰をするなんて、いったい私はどうしてしまったのだろう。その時自分の中の暗鬱とした肉体の渇きに気付き、たまらない自己嫌悪に陥った。しかし私が求めていたものに少し近づいた様に思え、その確信がより深まったのである。 |
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