■ 窓 - 窓 7
だが繰り返す激しい絶頂と引き換えに私の体力は消耗した。彼の所に泊まると必ず2回は抱かれ散々気を遣ってしまう。昨夜あれほど愛し合ったのに朝になるとまた大きな体を重ねてくるのだ。 彼は必ず私の中で果てるのを望んだが、そのまま挿入させると体が持たないので不満そうであったが手で処理していた。付き合った以上恋人として彼の欲望には出来るだけ応えたかったが、仕事にも支障が出てきたので彼と話し合い、泊まる時は2回までとした。彼は甚だ不満そうであったが「約束してくれないと、もう泊まらないよ!」といったら渋々了解してくれた。それ程彼の性欲は並外れて強かったのである。それ以降朝になると「圭太好きだよ。好きだ」と押し殺した声をあげながら後ろから私を抱きしめ自らを慰めるようになった。可愛そうな気はしたが気が付かないふりをして寝ていたのだ。
付き合い始めて3年目の頃に派遣された市民病院での事である。
その日は受け持ちの野村さんの診察があった。彼は柔道の練習中右腕を骨折したのだが血液検査で貧血が見つかり、経過観察でこちらの病棟に入院中である。再検査で貧血は改善してきており、間もなく退院になるだろう。年令は私より2歳下で同年代のせいか良く話しかけてくる患者さんだ。身長は180cm以上あり筋肉質な体で顔もはっきり言って私の好みである。「先生いつから右手を使っていいですかね。もう俺限界ですよ」と私の耳元で囁き股間の膨らみをさりげなく見せてくる。「自分で出来ないので、先生に処置して欲しいなぁ。これも治療の一貫ですよね。寝てるときに漏らしたりしたら恥ずかしいし」「そういうのは、彼女に相談してください。もう数日で退院できるので頑張りましょう」「俺付き合ってる人いないし。先生俺と付き合ってくれます?」と言いながらそのまま不意に唇にキスをされた。私は顔が赤くなりひどく動揺して大急ぎで医局に戻った。まったくいつもこんな感じなのだ。私がまだ若いからからかわれてるのだろうか。何よりも自分の好きなタイプなので、診察以外ではなるべく近づかない様にしていたのだ。キスしてくるなんてまったく困った患者さんだが、誰にも相談できずに困っていた。その日のうちに外科の了解も取り、2日後に退院することに決定した。ところが彼の退院の日、朝出勤すると医局の前で野村さんが待っていたのだ。「おはようございます!ようやく今日退院です。先生と会えなくなるのが残念だけど」「あぁ、野村さん。退院おめでとうございます」「入院中いろいろお世話になりました。これはこの間のお詫びです」と菓子折りとメモを渡された。メモには彼の住所と電話番号が書いてあった。これはマズいと思い「野村さん、ダメですよ。こういうのは受け取れないです」と返そうとしたがサッと逃げられてしまった。「先生の返事待ってますよ。あれ本気ですからね」と手を振って帰っていった。冗談かと思っていたが、本気だったとは。こんな事が洋輔さんにばれたら大変なことになる。想像しただけで胃が痛くなってきた。
それから3か月ほど特に彼に会う事も無く次第に忘れていた。いや忘れようとしていたというのが本当だ。その日は、週末洋輔さんとスーパーへ買い出しに来ていた。「あの人、圭太に挨拶してるよ。知り合い?」そちらを見ると野村さんがニコニコしながら近づいてきた。なんで野村さんがここにいるのか頭が追い付かず一瞬絶句してしまった。「やっぱり原田先生だ。凄い偶然ですね。ご無沙汰してます」「あれ、この近くでしたか?」「今月こちらの警察署に転勤になりました。やっぱり先生とはご縁が有るみたいですね」公務員とは聞いていたが警察官だったとは、どおりで良い体をしている。よりによって二人で買い物中に出会うなんて想定外だった。急に洋輔さんが私を守るように前に入り込み、野村さんをバチバチに睨みつけている。すでにスイッチが入り試合中のような顔になっているではないか。このままではマズいと思い「こちらは入院中担当していた野村さん、こちらは友達の井上さんです」となんとか紹介した。「初めまして、入院中先生にはいろいろとお世話になりました。警察官をやってます。野村亮です」洋輔さんを挑発するような言い方だ。何も世話なんかしてないしあれは仕事だ。頼むから余計な事言うなよと私も野村さんを睨んでいた。「井上洋輔です。建築関係の会社員です」彼は大人の対応をしてくれたが、野村さんもすでに笑ってないし二人とも睨み合っている。これはなんとか二人を引き離さなければと思い「我々は、用事が有るので先に帰りますね」と洋輔さんの手を引っ張ってなんとか店の外に出た。「患者さんと随分仲良くなったんだね」と早速嫉妬だ。「年齢が近かったから話しやすかったのかな」とごまかしたが「野村さん、圭太の事好きだね」「えぇ、患者さんだよ。そんな事有るわけないし」「いや圭太を見る目で分かるよ。それに圭太のタイプだろ」「誤解だよ。仕事で接してただけだから」と言っても嫉妬のあまりすっかり頭に血が上っている。私は何も悪いことしてないのにまた胃がキリキリと痛くなってきた。家に帰ってから少し落ち着いてきたが「圭太は優しすぎて押しに弱いから心配だ」確かに洋輔さんと出会った日に気が付くと部屋で一緒にビール飲んでたし。すごい勢いで口説かれてその日のうちに抱かれてしまった。まぁ、私もそれを望んでいたのだが彼の行動力には驚いた。彼はそれを心配しているようだ。確かに押しに弱いのは自分でも自覚している。同僚に仕事を頼まれるとどうしても断れない。「いいかい、二人だけで会うのは絶対禁止だ。どうしても断れないときは俺も一緒に行くから」と釘を刺されてしまった。
それから2週間程経ち、洋輔さんから誘われ近くにあるスポーツクラブに通う事にした。彼はここで週3回は筋トレしている。剣道だけで十分凄い体なのに、まだ筋トレするとは凄い体力だ。その日も一緒にストレッチをした後、マシンの使い方を教えてもらっていた。「じゃぁ、あっちでトレーニングしてるから。分からない事が有ったら声かけて」と言いフリーウェイトの方へ行ってしまった。彼は私と違って人見知りしないので誰とでもすぐ友達になる。顔見知りがいるようで筋肉を見せあって笑っている。若い男の補助をしながら楽しそうだ。男が彼の筋肉を確かめるようにやたらと体を触っている。私はなんともネガティブな居心地の悪さに気が付いた。彼が他の男と楽しそうに話しているのを見るとイライラしてくるのだ。心を火で炙られるような苦しさを感じた。これが嫉妬するという事なら本当に辛い。
彼はいつもこんな風に感じていたのかと思うと、嫉妬の感情が少し理解でき距離がまた縮まったような気がした。しばらくして「圭太俺プールで泳いでくるけどどうする?」「水着持ってきてないから筋トレしてるよ」まったく筋トレの後泳ぐなんて、剣道の有段者の体力は驚くばかりだ。私は最後にクールダウンのストレッチをしていると、久しぶりに汗を流し仕事とは違う心地よい疲労感で心身ともリラックスできた。これなら定期的に通えるかなと思っていた。
「原田先生ここの会員だったんですか?偶然ですね」と後ろから声を掛けられ振り向くと野村さんだ。本当に偶然なのか疑わしいが。もうここまでくると後を付けられてるような気がした。「今日が初めてです。いつも来てるんですか?」「こっちへ転勤してから直ぐ入会したんです。ジムは近いほうが良いので」「ストレッチ教えますよ。一緒にやりましょう」返事をする前に後ろに回りすっぽりと抱かれてしまった。「もう帰るところなんで。大丈夫です」
「まだあの時の事怒ってるんですか。先生は俺にはいつも冷たいよな。今日は1人ですか?帰りに飲みに行きましょうよ」と耳元で囁かれた。「井上さんはプールに行ってます」「やっぱりそうですよね。井上さんガード固いからな。原田先生と話しもさせてくれないし」「もう着替えて帰りますから」と言ってシャワーを浴びに行き汗を流していた。不意に後ろから抱きしめられる。「だめだよ。もうプール終わったの」と言ってシャンプーの泡を流して見ると野村さんが全裸で抱きしめていたのだ。慌てて体を離した。厚い大胸筋から謙虚に引き締まった腰回り、そして筋肉質で張りのある大きな尻。毎日鍛えているのが良く分かる若く健康な体だった。すでに股間が大きく怒張し始めている。「こんな所で何やってるんですか」と言ってシャワーの冷水を股間に掛けた。「あっ、冷たい!先生ひどいな」と笑いながら言ってるが目は完全に捕食する獣の様になっており、私は怖くなりそのままロッカールームに逃げこんだ。タオルで体を拭いているとようやく洋輔さんが戻ってきた。私の様子に異変を感じたのか「圭太どうした?」裸で抱きしめられたとも言えず「ジムで野村さんと会った」と言うと「えっ!そういえばこの近くの警察の寮に住んでると言ってたな。こんなに何度も会うなんて変だな。しばらく俺のアパートに一緒に居よう。俺もその方が安心だ。着替えを持っておいで」「そうだね。分かった」と言ってる間に嫌な予感はしたが、シャワー室から野村さんが戻ってきてまさに洋輔さんと鉢合わせになった。私はまだ裸だったので、洋輔さんは直ぐに私の前に来て大きな体で見えないようにしてくれた。「圭太直ぐ服を着るんだ。ロビーで待ってて。すぐ行くから、一緒に帰ろうな」「うん分かった」「野村さんちょっと話が有るんですが。時間ありますか」野村さんが真剣な顔で洋輔さんに近づいてきた。スーパーの時とは比べ物にならない殺気で、バチバチで二人とも睨み合ってる。身長はほぼ同じくらいで種類は違うがどちらも武道系のアスリートだ。何もなければ良いが、私は余りの緊張感でロビーに先に行って待っていた。5分位で彼が出てきたが、完全に怒りで頭に血が上っている。「まったく無礼な奴だよ。幸せにするので圭太をくれって言うんだ。井上さんより幸せにしてみせますってさ」「圭太をモノ扱いするなんて無礼だろ。そもそも、それはあんたが決める事じゃない。圭太が決めることだと言っておいたよ」洋輔さんが、はっきり言ってくれた事が何よりも嬉しかった。
「あいつが警察官じゃなかったら一発殴ってたかもしれない」とこぶしを握りしめている。「それに今は十分幸せだよ」と洋輔さんが呟いた。その言葉が堪らなく嬉しくまた彼に恋をしたのである。それから洋輔さんの守りはより固くなり、仕事以外の時は私を1人にすることは無くなったのだ。
それから10日ほど経ってから、私は今年の学会発表の担当になり昼休みも図書室で調べ物をしていた。10畳ほどの部屋の奥で書棚を見ていると「原田先生探しましたよ」と野村さんに後ろから声を掛けられた。「医局に行ったらここだって言われて。今日外来で診察だったんです。原田先生に診てもらいたかったなぁ」と言いながら図書室のドアを閉めて中に入ってきた。「今日は、外来担当じゃないので」と言いながら後ずさりした。2人だけになるのはマズい。ドアは一か所なので後ろは行き止まりだ。大きな体がどんどん近づいてくる。「先生そんなに警戒しないでください。先生に何かしたら、井上さんに殺されちゃう」と笑いながら言うのだ。「あんなカッコいい彼氏がいるなんてなぁ。相手に不足は無いですよ」と目の前まで来て両腕で私を壁際に追い込んだ。「彼氏って、何言ってるんですか。友達ですよ」「いや〜、井上さんの原田先生を見る目、あれは愛しい人を見る目ですよ。私も同じなので、すぐお二人の関係が分かりました」「同じってなんですか?」と言うと「同じく原田先生の事を好きだってことです。俺は本気だって言いましたよね。まだ先生から返事貰ってないし」「からかわないでください。もう私の事は諦めてください」「諦めようと思ったけど、やっぱり近くで先生を見ると可愛くて我慢できない。井上さんに、改めて原田先生を僕にくださいと言います」野村さんは、私より2才年下だ。若さ故かすっかり頭に血が上っている。一気に両腕で壁まで押し付けられた。強く抱きしめて首筋の匂いを嗅いでくる。「あぁ〜、良い匂いだ。そんな目で見て、俺を誘ってるんですか?こうやって、井上さんも落としたんですね。悪い人だな。ほら、先生のせいでもうこんなになってる」私の手を取り股間を無理やり触らせる。そこはすでに熱を帯びて硬く屹立している。そのまま、また強く抱きしめられキスをされた。何とか逃げようともがくが、体格差とすごい力でまったく逃げられない。舌を絡めて強く吸われゴリゴリに硬くなった股間を押し付けてくる。これではレイプされてしまうかもしれない。あまりの恐怖に「洋輔さん助けて!」と思わず声が出てしまった。私の声を聞いた途端、野村さんは我に返り体を離し「そんなに好きなんですか」と言った。「野村さん、警察官として恥ずかしくないですか。力で屈服させても、心まで自分のモノにはできませんよ。私から井上さんを好きになったんです。あなたが割り込む余地は無いんですよ」「今日は二人とも会わなかったし何もなかった。それでいいですね?」「すいません、乱暴な事して。先生の顔が見たくて寄っただけなんです」うなだれて部屋を出て行った。誰かを好きになっても必ず恋が成就するわけではない。私もそうだったので辛い気持ちはよく分かる。私は彼と縁が有り幸運だっただけだ。しかし暴力は許されるものではない。あのまま犯されていたらと思うと本当に怖くなった。その夜はいつもと逆で自分から洋輔さんを激しく求めて何回も愛し合った。彼の胸の中で抱きしめられ規則正しい心臓の音を聞いていると恐怖感は収まってきた。彼はいつもと違う私に気付いていたが、あえて何も聞かずしっかりと抱きしめてくれていた。その後野村さんがストーカーにならないか心配だったが、たまにスーパーで見かけても二度と声を掛けてくることはなくなったのである。