連載小説
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狂気
彼がポケットから取り出したスマートフォンの画面には、奇妙な波形を示すアプリが表示されていた。
それが何を意味するのか、私にはすぐには理解できなかった。しかし、彼のどこか歪んだ、楽しげな笑みを見た瞬間、私の背筋に冷たい戦慄が走った。

「今日はね、これを君のお尻に入れた状態で、いつもの電車に乗ってもらうよ」

彼がもう一方のポケットから取り出したのは、滑らかなシリコンで覆われた、手のひらサイズの卵型の器具だった。コードなどどこにもない。それが、スマートフォンからの電波を通じて、遠隔で振動の強弱を操作できる「ワイヤレスバイブ」と呼ばれる玩具であると説明されたとき、私は目眩がするほどの羞恥に襲われた。

「そ、そんな……そんなものを入れたら、歩くことだって……」

「大丈夫、君のお尻はもう、このくらいの大きさなら簡単につなぎ留めておけるはずだよ。それとも、私の言うことが聞けないのかい?」

彼の冷徹な、しかし私のすべてを見透かすような瞳が私を射抜く。
私はもう、彼に逆らう術を持っていなかった。彼の言葉は、私の錆びついた理性をいとも簡単に踏みじり、肉体の奥底にある従順な本能を呼び覚ます呪文だった。

私たちは駅の構内にある、人通りの少ない多目的トイレへと入った。
個室の中で、私は自らスラックスと下着を膝まで下ろし、便器に両手を突いて腰を突き出した。半年以上の調教を経て、すっかり彼の色に染まった私のお尻は、彼の指先が触れただけで、まるでおねだりをするようにキュウキュウと小さく蠕動を始める。

「いい子だ。ほら、力を抜いて」

彼の手によって、冷たいローションが窄みに塗られる。そして、カチリと小さな起動音が響いた後、その卵型の塊が、ぬるりと私のお尻の門へと押し込まれていった。

「あ……ん、うぅ……っ!」

異物が体内の、それもかなり深い位置に収まる不快感と、微かな圧迫感。
彼が指でグッと奥まで押し込むと、私のお尻の肉壁は、そのプラスチックの塊を本能的にきゅっと締め付けた。

「よし、しっかり入ったね。スイッチはまだ入れないでおいてあげる。……さあ、いつもの電車に乗ろうか」

衣服を整え、トイレを出る。
一歩歩くたびに、お尻の奥で硬い塊がゴロゴロと転がり、粘膜を刺激した。落ちてきてしまわないかという恐怖から、自然とお尻に力を入れて、内腿を擦り合わせるような、奇妙にぎこちない歩き方になってしまう。

駅のホームは、いつものように家路を急ぐサラリーマンや学生たちで溢れ返っていた。
誰もが疲れた顔でスマートフォンの画面を見つめており、私の衣服の下、そのお尻の奥深くに淫らな玩具が仕込まれているなどとは、微塵も疑っていない。その「日常」と「異常」の圧倒的なギャップが、私の前方のモノを、誰も触れていないのにじわりと硬くさせていった。

やがて、滑り込んできた満員電車に、私たちは周囲の乗客に押し出されるようにして乗り込んだ。
いつものドアの脇。車内は身動きが取れないほどの混雑で、私の正面には、彼がぴったりと身体を寄せる形で立っている。

ガタゴトと、電車が動き出す。
周囲の雑音と走行音が響く中、彼は私の目をじっと見つめながら、ポケットからスマートフォンを取り出した。

「……じゃあ、始めるよ」

彼の細い指先が、画面を軽くタップした。

彼の指先がスマートフォンの画面をタップした瞬間、私のお尻の最奥で、眠っていた機械の塊が突如として凄まじい唸りを上げて震え出した。

「ひ、あうっ……!?」

あまりの衝撃に、私は思わず声を上げそうになり、慌てて自分の口を両手で覆った。満員電車の密着した空間のなか、私の身体はビクンと大きく跳ね上がる。

ブーーーーン、と骨に直接響くような、重低音の振動。それが私の最も敏感な粘膜を、内側から容赦なく、均一の速度で激しく震わせる。

「う、く……っ、ん、んん……!」

声を出してはならない。周囲には隙間なくサラリーマンやOLが立っている。もしここで私が変な声を上げたり、崩れ落ちたりすれば、すべてが破滅する。
そんな極限の恐怖のなかで、私のお尻の肉壁は、激しく震える異物を必死に締め付け、外に飛び出さないよう堰き止めようとしていた。しかし、締め付ければ締め付けるほど、振動はよりダイレクトに体内の神経へと伝わり、脳髄を狂わせる快感へと化けていく。

正面に立つ彼は、涼しい顔をしてスマートフォンを片手に持ったまま、時折、画面の上で指を滑らせた。

(あ、あぁ……また、変わる……!)

画面の波形が変わるたびに、お尻のなかの振動パターンが変化する。
小刻みな震えから、波打つような断続的な振動へ。そして、心臓の鼓動のようにドク、ドク、と激しく突き上げるようなリズムへ。そのたびに、私の腰はガクガクと震え、吊り革を握る右手に全ての体重をかけるようにして、なんとか立ち続けていた。

「どうだい? よく響いているようだね」

彼が周囲に聞こえないほどの囁き声で、私の耳元に唇を寄せた。
彼の目が、羞恥と快感の泥沼に溺れている私を見て、ギラギラと妖しく輝いている。

「あ、あん……っ、お、お願い、です……止めて、くだ、さい……っ」

涙目で懇願する私に対し、彼は残酷に微笑むと、スマートフォンの画面にある「最大」のボタンを押し込んだ。

ブゥゥゥゥゥン!!!!

これまでにない猛烈な、狂ったような振動が私の中を駆け抜けた。
お尻の奥のスイッチを、一秒間に何百回と執拗に叩かれているような感覚。頭の芯が完全に真っ白になり、視界がチカチカと明滅する。誰も私の前方のモノに触れていないというのに、スラックスのなかで完全に反り返った私のモノは、先っぽから溢れ出た我慢汁で下着をぐっしょりと濡らし、ついに限界を迎えた。

「ん、ほぉぉぉぉっ……!!」

走行音にかき消されるような、かすれた悲鳴とともに、私は誰にも気づかれないまま、満員電車のなかでお尻の振動だけで達してしまった。熱い液体が下着のなかへ溢れ出し、情けなくも太ももを伝っていく。

私が絶頂を迎えたのを見届けると、彼はようやくアプリの電源をオフにした。
突然訪れた静寂のなかで、私はただ荒い息を吐きながら、ガクガクと震える膝を必死に支えて立っていた。お尻のなかには、まだ熱を持った機械の塊が居座り、異物感を主張している。

「よく耐えたね。ご褒美に、次の駅で降りて、もっといい場所へ連れて行ってあげよう」

彼に手を引かれ、私は這うような足取りで電車を降りた。
達したばかりの身体は言うことを聞かず、お尻のなかのバイブが歩くたびにゴロゴロと動く。しかし、私の中にあったのは、恐怖ではなく、「次はどこへ連れて行かれるのだろう」という、底なしの期待感だった。

彼が私を連れて向かったのは、彼の自宅ではなかった。
そこは、夕暮れ時の薄暗い公園の片隅にある、年季の入った公衆トイレだった。ゲイの人々が密かに集まるという、その界隈では有名な場所。

そこが、私の人生で最も破滅的で、最も淫らな夜の舞台になるとは、この時の私はまだ知る由もなかった。
26/06/17 17:41更新 / 調教師の60代
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