連載小説
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原点
72年という歳月は、大きな波風を立てずに平穏に生きるには十分すぎる時間だった。

私の人生を振り返ってみれば、そこには「模範的な父親」「実直な夫」という記号が綺麗に並んでいる。20代後半で大恋愛の末に妻と結婚し、二人の子供を授かり、定年まで一つの会社を勤め上げた。数年前に妻を病気で亡くしてからは、一軒家で静かな独り暮らしを続けている。子供たちはすでに独立し、それぞれの家庭を持っている。たまに孫の顔を見るのが唯一の娯楽といえば娯楽だったが、基本的には孤独と静寂が私の日常のすべてを占めていた。

年齢を重ねるということは、肉体からあらゆる「欲」が削ぎ落とされていくプロセスだと思っていた。
食欲は細くなり、物欲も消え、そして性欲に至っては、もう10年以上も前に完全に息を引き取ったものと確信していた。朝起きて鏡を見るたびに映る、白髪の混じった頭髪と、深く刻まれた目元の皺。私のモノは、ただ排尿のためだけに存在する無機質な肉の一部に過ぎなくなっていた。

あの日、あの電車に乗るまでは。

初夏の汗ばむような陽気の午後だった。私は特に急ぎの用事もないまま、市街地へ向かうためにいつもの路線に乗り込んだ。車内は適度に混み合っており、私はドアの脇の仕切りに背中を預けるようにして立っていた。

ガタゴトと揺れる電車の振動に身を任せていると、次の駅でどっと乗客が押し寄せてきた。私の目の前に立ったのは、白髪を綺麗に整え、仕立ての良さそうなジャケットを羽織った、私と同年代か少し上に見える大柄な男性だった。背筋がすっと伸びており、年齢を感じさせない品格のようなものを漂わせている男だった。

車内がさらに過密になり、男の身体が私の正面にぴったりと押し付けられる形になった。
最初は、満員電車にありがちな不可抗力の接触だと思っていた。だが、次の駅を過ぎたあたりから、何かがおかしいと気づき始めた。

男の右手が、不自然な角度で私の下腹部のあたりに配置されている。
気のせいだと思おうとした。しかし、電車の揺れに紛れ込ませるようにして、その手のひらが、私のスラックスの上から股間をじわりと包み込むように圧迫してきたのだ。

「え……?」

声にはならなかった。心臓が跳ね上がる。
驚きと、恐怖。そして何より「男に触られている」という事実に対する、強烈な拒絶感が脳裏をよぎった。すぐにでも相手の手を振り払い、睨みつけるべきだった。それが、72年間「普通」に生きてきた男の取るべき正しい反応のはずだった。

しかし、私の身体は、脳の命令とは全く逆の反応を示した。

男の手のひらが、ゆっくりと、しかし確実に熱を帯びながら私のモノを揉み解すように動き始めた瞬間、ドクン、と下腹部の奥深くで何かが跳ねる音がした。
10年以上、ピクリとも動かなかったはずの肉塊が、信じられないほどの速さで熱を持ち、硬さを増していくのが分かった。

(嘘だろ……なんで、こんな……)

恥ずかしさと混乱で、顔がカッと熱くなる。
男の手は、私のモノが急激に形を変え、大きく膨らんでいくのを確かに感知したのだろう。男の口元が、わずかにニヤリと歪んだのが見えた。その手つきはさらに大胆になり、服の上から私の膨らみをしっかりと握り締め、上下に擦り始めた。

気持ち悪いはずだった。あってはならないことのはずだった。
なのに、男の大きな手のひらから伝わってくる体温が、私のスラックスの生地を通して、眠っていた細胞を狂ったように呼び覚ましていく。電車の不規則な揺れが、男の手の動きとシンクロし、背筋を突き抜けるような甘い痺れが脳髄を直撃した。

私は、拒絶の言葉を発することもできず、ただただ電車の吊り革を強く握り締め、荒くなる呼吸を必死に堪えることしかできなかった。

男は、自分の最寄り駅に到着するまでの約15分間、執拗に、そして愛おしそうに私のモノを触り続けた。
電車が駅に滑り込み、ドアが開く間際、男は私の耳元に顔を近づけ、低く掠れた声で囁いた。

「いいモノを持ってるじゃないか……」

それだけ言い残すと、男は何食わぬ顔で混雑するホームへと消えていった。
残された私は、足がガクガクと震え、スラックスの中で今までにないほど猛烈に勃起した己のモノを持て余しながら、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

その日を境に、私の日常は完全に崩壊した。

翌日、私は乗る必要のないはずの、昨日とまったく同じ時間の電車に足を運んでいた。
理性では「行ってはいけない」「昨日のことは忘れるべきだ」と強く言い聞かせていた。しかし、10年ぶりに感じたあの圧倒的な熱量と、男の手の感触が、私の身体から離れなくなっていたのだ。気がつけば、昨日と同じ車両の、同じドアの脇に立っていた。

そして、運命の歯車は狂ったように回り始める。
次の駅でドアが開くと、人混みの中に、昨日のあの男の姿があった。男は私を見つけると、当然のように私の目の前へと歩み寄ってきた。

昨日よりも迷いのない手つきで、男の手が私の股間に伸びる。
私のモノは、男の姿を見た瞬間から、すでに硬くなり始めていた。

「待っていたよ」

男の低い声が鼓膜を揺らす。
私はもう、抵抗する気力を失っていた。恐る恐る、自分の右手を伸ばす。衣服越しに触れた男の股間には、私のものとは比較にならないほど、凶暴なまでに大きく、太いモノがすでにそり立っていた。

(ああ、私は一体、何をしているんだ……)

罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、私は男の大きな質量を、不器用な手つきで触り返していた。お互いに服の上から貪り合うように触り合う。それは、電車の乗客たちの目を盗んだ、あまりにも背徳的で、あまりにも濃密な2人だけの時間だった。

それから毎日、同じ時間、同じ車両で私たちは言葉もなく触り合い続けた。
最初は服の上からだけだった行為が、2週間も経つ頃には、限界を迎えていた。混雑の死角を利用して、男の手は私のズボンのファスナーを引き下げ、下着の中に滑り込んできた。

生身の手のひらで、直接触れられる衝撃。
男の指先は、すでに自身の先っぽから溢れ出た粘り気のある我慢汁で濡れていた。その濡れた指で私のペニスを激しく擦り上げられるたび、私は声を漏らさないよう、唇を血が出るほど噛み締めた。

電車内という環境ゆえ、いつも行為は中途半端なところで終わってしまう。男が駅で降りた後、私の指先には、彼から移った生々しい我慢汁の感触が残されていた。
私は車内の隅で、誰にも見られないようにその指先を見つめ、抗いがたい衝動に駆られて、それをペロリと舐めてしまった。

口内に広がる、塩分を帯びた独特の苦味と匂い。
その瞬間、私の中で何かが完全に弾けた。72歳の老人の中に眠っていた「変態性」という名の怪物が、ついにその目を覚ました瞬間だった。

指先に残った彼の匂いを舌で割り切るように舐めとったあの瞬間から、私の頭の中は完全に彼一色に染まっていた。

夜、自宅の静まり返った寝室に一人で横たわっていても、目を閉じれば浮かんでくるのは、電車の不規則な振動と、スラックスの暗闇の中で蠢く彼の大きな手の感触だけだった。かつて妻と過ごしたこの家が、今はどこか遠い異郷のように感じられる。仏壇に手を合わせるたび、猛烈な罪悪感が胸を突き刺すのに、下腹部はそれに反比例するようにじんわりと熱を帯びてしまうのだった。

「もう後戻りはできない」

翌日、私はいつものように同じ時間の電車に乗った。しかし、今日という日はこれまでとは違っていた。私の心の中には、ある一つの「決意」が固まっていた。いつまでも車内の中途半端な愛撫だけで満足できる段階は、とうに過ぎ去っていたのだ。

駅に滑り込む電車の窓から、ホームに立つ彼の姿が見えた。今日はお互いに示し合わせたわけでもないのに、彼が私を見つめる目が、いつもより深く、鋭いものに感じられた。

混雑する車内。私たちは言葉を交わすことなく、いつもの定位置へと身体を寄せ合う。
すでに手慣れた動作で、彼は私のズボンの前を緩め、下着の中に直接手を滑り込ませてきた。生身の指先が私のモノをしっかりと握り締め、溢れ出る我慢汁を擦り込むようにして上下に動かす。私もまた、彼のズボンの上から、あの凶暴なまでに大きく太い質量を夢中で握り締め、感触を確かめていた。

「あっ……ん……」

小さく漏れそうになる吐息を、電車の走行音がかき消してくれる。彼の大きな手がペニスの亀頭を親指で激しくなぞるたび、頭の芯が痺れるような快感が波のように押し寄せてきた。彼の指先はすでに自身の粘液で濡れそぼり、私たちの境界線を曖昧にしていく。

やがて、彼がいつも降りる駅の直前、電車のブレーキが軋む音を立て始めた。
いつもなら、ここで彼は名残惜しそうに手を引き、服を整えて去っていくはずだった。しかし、彼は私の耳元に顔を寄せると、低く、しかし有無を言わせない響きでこう呟いたのだ。

「……一緒に来るか?」

その言葉は、私にとっての救いであり、同時に破滅への招待状でもあった。
私は言葉を返す代わりに、小さく、だがはっきりと首を縦に振った。

ドアが開き、人の流れに押し出されるようにして、私は彼の後ろを歩いた。改札を出て、駅前の喧騒を通り抜ける間、私たちは一言も口を利かなかった。ただ、彼の広い背中を見失わないように、私は必死についていくことしかできなかった。72歳にもなって、見知らぬ男の後ろを誘われるままに歩いているという事実。その異常な状況自体が、私の興奮をさらに煽っていた。

駅から歩いて10分ほどのところにある、閑静な住宅街の一軒家。そこが彼の自宅だった。
彼が鍵を開け、私を中に招き入れる。玄関のドアが閉まり、カチャリと鍵がかかった瞬間、張り詰めていた緊張感が一気に弾けた。

「よく来てくれたね。前々からたまに見かける君をずっと気になっていたんだ」

彼が初めて、電車の外の光の中で私に向かって微笑んだ。その笑顔には、大人の余裕と、獲物を追い詰めた猟師のような妖しい光が混ざり合っていた。

私は喉を鳴らしながら、震える声で告白した。
「私……本当に、男性の経験がないんです。ずっと家庭一途で、こんな風に男の人に惹かれるなんて、自分でもどうにかなってしまったんじゃないかと……」

私の言葉を聞いた瞬間、彼の目が見開かれ、次の瞬間には驚きと、それを上回る深い悦びに満ちた表情へと変わった。

「そうか……。その年齢で、初めての相手が私なのか。それは……なんとも光栄なことだ。愛おしいな」

その「愛おしい」という言葉に、私の心は完全に融解した。

彼は私の肩を優しく抱き寄せ、静かに唇を重ねてきた。
初めて経験する、男同士のキス。妻とのそれとは全く異なる、大人の男の匂いと、タバコの香りが微かに混ざった深い口づけ。彼は私の舌を優しく巻き取り、唾液を絡ませながら貪るように吸い上げていく。
最初の経験という割に、私はその唾液混じりの濃厚なキスに信じられないほど感じてしまっていた。舌が触れ合うたびに、背筋を電流が駆け抜ける。

「身体の力を抜いて、私に任せなさい」

彼は私をリビングのソファに誘い、私の衣服を丁寧に脱がせていった。露わになった私の老いた肉体を、彼は拒むことなく、むしろ宝物を愛でるような手つきで撫で回す。

そして、彼が私の前に膝をつき、私のモノをその大きな口で咥え込んだ。

「あ、あっ……! はあぁ……っ!」

熱く、濡れた口腔に包まれた瞬間、私は腰を大きく跳ね上げた。電車の服越しとは比べものにならない、圧倒的な肉の愛撫。彼の舌が裏筋を舐め上げ、吸い上げるたびに、私は 10年以上忘れていた絶頂の感覚へと一気に押し流されていった。
ほんの数十秒、ただ咥えられただけだった。それなのに、私は我慢することができず、彼の口の中で情けない声を上げながら、勢いよく射精してしまっていた。

「はぁ、はぁ……す、すみません、すぐに、出てしまって……」

息を荒くしながら謝る私を見上げ、彼は口元を白く汚しながら、満足そうに微笑んだ。
「いいんだよ。初めてなんだから。それだけ感じてくれたなら、私もうれしい」

彼はそう言うと、今度は自身のズボンを脱ぎ捨てた。
目の前に現れた彼のモノは、電車の衣服越しに感じていた以上に、悍ましいほどに大きく、太く、そして猛々しくそり立っていた。先っぽからは、すでに透明な我慢汁が溢れ、大腿を濡らしている。

「今度は、君の番だ。私のを、綺麗にしておくれ」

私は吸い寄せられるように、彼の股間へと顔を近づけた。男のモノを口に含むという行為への抵抗感は、もう微塵も残っていなかった。ただ、彼を満足させたい、彼のすべてを味わいたいという本能だけが私を突き動かしていた。

大きく太い肉塊を、口いっぱいに頬張る。
喉の奥を突かれるような質量に、何度もむせそうになりながらも、私は必死に舌を動かし、彼のモノを舐めしゃぶった。私の口内が彼の熱で満たされていく。

「あぁ……上手だ、初めてとは思えないな……っ」

彼の低い喘ぎ声が聞こえ、男の腰の動きが激しくなる。そして、私の口の奥深くを貫いたまま、彼は熱い塊を勢いよく吐き出してきた。

ドクドクと口内に溢れ出る、大量の精液。
強烈な生臭さと、熱さ。しかし、私の中に湧き上がったのは不快感ではなく、彼を満足させられたという底知れない嬉しさと、征服されたような悦びだった。私は一切躊躇うことなく、そのドロリとした熱い液体を、ゴクリと喉を鳴らしてすべて飲み干してしまった。

「……全部、飲んでくれたのか」

彼は私の髪を優しく撫で、愛おしそうに再びキスをしてくれた。口内に残る彼の味を確かめながら、私は自分がもう、かつての「実直な男」には戻れないことを確信していた。

だが、この時の私はまだ知らなかった。
この日果たした「初めての経験」は、これから始まる果てしない快楽の沼の、ほんの入口に過ぎなかったということを。
26/06/17 17:47更新 / 調教師の60代
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