公園の邂逅
人生の終着駅がどこにあるのかなど、考えたこともなかった。
定年を迎え、妻とはずいぶん前に籍を分かち、子供たちもそれぞれの家庭を持って遠くで暮らしている。65歳になった私に残されたのは、ただ退屈で、静かすぎるほどの時間だけだった。
その日も、私はいつものように近所にある広大な公園を散歩していた。
新緑が目に眩しい、初夏の午後だったと記憶している。木漏れ日が遊歩道に斑点の模様を描き、温かい風が頬を撫でていく。ベンチに腰掛け、行き交う人々をぼんやりと眺めるのが、ここ数年の私のささやかな日課になっていた。
だが、私の心の中には、誰にも言えない「秘密の歪み」があった。
これまでの人生、いわゆる普通の男として生き、結婚し、子供を育ててきた。しかし、若い頃から、男性の肉体に対する仄暗い興味が、心の奥底に澱のように沈殿していたのだ。テレビに映る屈強な男の身体、街ですれ違う若い男の匂い……。そんなものに、ふと目を奪われる自分に気づきながらも、私はそれを出したことは一度もなかった。男色など、自分には縁のない別世界の出来事だと、頑なに蓋をして生きてきたのだ。
「いい天気ですね」
不意に、頭上から穏やかな声が降ってきた。
見上げると、そこには二人の老紳士が立っていた。一人は白髪を綺麗に整え、仕立ての良いシャツを着こなした、いかにも育ちの良さそうな男。もう一人は、それより少し年上に見える、恰幅が良くどこか威厳を感じさせる男だった。後から知ることになるが、前者が当時70歳だった修(おさむ)さん、後者が73歳だった厳(げん)さんである。
「ええ、本当に。散歩にはうってつけの日ですね」
私は努めて愛想よく微笑み、ベンチの端に寄って場所を譲ろうとした。しかし、二人は座ろうとはせず、値踏みするような、それでいて酷く熱を帯びた視線で私をじっと見つめていた。その視線の鋭さに、私は背筋が微かに粟立つのを感じた。
「あなた、いつもここで一人で座っているね」
年長の厳さんが、低く響く声で言った。
「私たち、ずっと君のことを見ていたんだよ。……まだ若いね。幾つかね?」
「あ……65になります」
世間一般では十分に高齢者の部類に入るはずの私を、彼らは迷いなく「若い」と評した。二人の目には、私がまだ瑞々しい獲物のように映っていたのかもしれなかった。
「65か、一番いい盛りだ。どうだろう、もしよければ、これから私たちの家でお茶でも飲まないかね。すぐそこなんだ」
修さんが、妖艶とも言える笑みを浮かべて私の手元に指を滑らせてきた。その指先が、私の太ももを衣服越しに軽く撫でる。
普通の男なら、ここで不気味に思って立ち去るか、怒り出すところだろう。しかし、私の身体は、その一触に雷に打たれたかのように硬直してしまった。長年、心の奥底に封印してきた「興味」という名の怪物が、彼らの放つただならぬ色気に反応し、一気に目を覚まそうとしていた。
「私、は……」
拒絶の言葉は喉に詰まった。二人の老紳士から漂う、大人の男独特の渋い香水の匂いと、隠しきれない雄の気配。それに圧倒され、私はただコクリと首を縦に振ることしかできなかった。
これが、私の人生を根底から覆す、甘美で歪んだ調教の日々の始まりだとは、この時の私はまだ知る由もなかった。
二人の案内に従い、私は公園の裏手に位置する静かな高級マンションへと向かった。
修さんと厳さんは、並んで歩くその距離が妙に近く、時折、互いの肩や手が自然に触れ合っている。その様子は、長年連れ添った夫婦のようでもあり、同時にどこか張り詰めた色気を放っていた。私の心臓は、自分の足音をかき消すほどに激しく脈打っていた。これから何が起こるのかという恐怖と、それを上回る未知の興奮が、足元を狂わせていく。
「さあ、入りなさい」
厳さんが重厚なドアを開け、私を室内に促した。
部屋の中は、革製のソファやクラシックな調度品で整えられた、落ち着いた空間だった。しかし、カーテンが厚く閉め切られているせいか、外の明るい太陽の光は遮られ、薄暗い空間には独特の濃密な空気が満ちていた。
「緊張しているね。まあ、そこに座りなさい」
修さんが優しく微笑みながら、私を大きなソファへと座らせた。彼はすぐに冷たいお茶を運んできてくれたが、それを一口飲んでも、喉の渇きと胸の鼓動は一向に収まらなかった。
「君のような綺麗な男が、あの公園で一人ぼんやりしているのを見かけてから、厳さんと二人でずっと話していたんだ。……あの子は、こっち側の素質がある、ってね」
修さんが私の隣に信じられないほどの近さで腰掛け、私の顔をじっと覗き込んできた。70歳とは思えないほど、その瞳は潤んでいて力強い。
「男色の経験は……ないんだろう?」
正面の椅子に深く腰掛けた厳さんが、タバコに火をつけながら、紫煙の向こうから問いかけてきた。
「はい……ありません。ただ、その、以前から……」
私は言葉を濁した。だが、言い訳など通用しないことは、二人の目を見ればすぐに分かった。経験はない。しかし、ずっと求めていた。私のその剥き出しの欲望を、二人の老紳士は見事に透視していた。
「可愛い人だ」
修さんが呟くと同時に、彼の温かい手が私の頬を包み込んだ。
ハッとして身を強張らせたが、逃げることはできなかった。修さんの顔が近づき、お茶の香りと、大人の男の匂いが鼻腔をくすぐる。そして、私の唇に、柔らかいものが触れた。
初めての、男とのキスだった。
驚きで目を見開いたが、修さんの舌が滑り込んでくると、脳裏が真っ白になった。激しく翻弄される中で、私の身体は生まれて初めて経験する快感に震えた。女性とのそれとは全く違う、荒々しくも包み込むような、雄としての濃厚な愛撫。
「ふむ、いい声で鳴くじゃないか」
いつの間にか立ち上がっていた厳さんが、私たちの様子を満足そうに見下ろしていた。彼の大きな手が、私のズボンの上から、すでに硬くなり始めているペニスを容赦なく掴んだ。
「あ、はぁっ……!」
情けない声が口から漏れる。65歳にして、私は完全に彼らの手の内に落ちていた。男に触られ、翻弄されることに、これほどの悦びを感じるなど思ってもみなかった。
「今日から君は、私たちの可愛い玩具だ。たっぷり可愛がってあげるからね」
厳さんの低い声が、まるで呪縛のように私の耳元で囁かれた。ここから引き返すことなど、もう絶対にできない。私は二人の妖しい魅力と、自らの内に眠っていた本能に、完全に身を委ねることを決意したのだった。
定年を迎え、妻とはずいぶん前に籍を分かち、子供たちもそれぞれの家庭を持って遠くで暮らしている。65歳になった私に残されたのは、ただ退屈で、静かすぎるほどの時間だけだった。
その日も、私はいつものように近所にある広大な公園を散歩していた。
新緑が目に眩しい、初夏の午後だったと記憶している。木漏れ日が遊歩道に斑点の模様を描き、温かい風が頬を撫でていく。ベンチに腰掛け、行き交う人々をぼんやりと眺めるのが、ここ数年の私のささやかな日課になっていた。
だが、私の心の中には、誰にも言えない「秘密の歪み」があった。
これまでの人生、いわゆる普通の男として生き、結婚し、子供を育ててきた。しかし、若い頃から、男性の肉体に対する仄暗い興味が、心の奥底に澱のように沈殿していたのだ。テレビに映る屈強な男の身体、街ですれ違う若い男の匂い……。そんなものに、ふと目を奪われる自分に気づきながらも、私はそれを出したことは一度もなかった。男色など、自分には縁のない別世界の出来事だと、頑なに蓋をして生きてきたのだ。
「いい天気ですね」
不意に、頭上から穏やかな声が降ってきた。
見上げると、そこには二人の老紳士が立っていた。一人は白髪を綺麗に整え、仕立ての良いシャツを着こなした、いかにも育ちの良さそうな男。もう一人は、それより少し年上に見える、恰幅が良くどこか威厳を感じさせる男だった。後から知ることになるが、前者が当時70歳だった修(おさむ)さん、後者が73歳だった厳(げん)さんである。
「ええ、本当に。散歩にはうってつけの日ですね」
私は努めて愛想よく微笑み、ベンチの端に寄って場所を譲ろうとした。しかし、二人は座ろうとはせず、値踏みするような、それでいて酷く熱を帯びた視線で私をじっと見つめていた。その視線の鋭さに、私は背筋が微かに粟立つのを感じた。
「あなた、いつもここで一人で座っているね」
年長の厳さんが、低く響く声で言った。
「私たち、ずっと君のことを見ていたんだよ。……まだ若いね。幾つかね?」
「あ……65になります」
世間一般では十分に高齢者の部類に入るはずの私を、彼らは迷いなく「若い」と評した。二人の目には、私がまだ瑞々しい獲物のように映っていたのかもしれなかった。
「65か、一番いい盛りだ。どうだろう、もしよければ、これから私たちの家でお茶でも飲まないかね。すぐそこなんだ」
修さんが、妖艶とも言える笑みを浮かべて私の手元に指を滑らせてきた。その指先が、私の太ももを衣服越しに軽く撫でる。
普通の男なら、ここで不気味に思って立ち去るか、怒り出すところだろう。しかし、私の身体は、その一触に雷に打たれたかのように硬直してしまった。長年、心の奥底に封印してきた「興味」という名の怪物が、彼らの放つただならぬ色気に反応し、一気に目を覚まそうとしていた。
「私、は……」
拒絶の言葉は喉に詰まった。二人の老紳士から漂う、大人の男独特の渋い香水の匂いと、隠しきれない雄の気配。それに圧倒され、私はただコクリと首を縦に振ることしかできなかった。
これが、私の人生を根底から覆す、甘美で歪んだ調教の日々の始まりだとは、この時の私はまだ知る由もなかった。
二人の案内に従い、私は公園の裏手に位置する静かな高級マンションへと向かった。
修さんと厳さんは、並んで歩くその距離が妙に近く、時折、互いの肩や手が自然に触れ合っている。その様子は、長年連れ添った夫婦のようでもあり、同時にどこか張り詰めた色気を放っていた。私の心臓は、自分の足音をかき消すほどに激しく脈打っていた。これから何が起こるのかという恐怖と、それを上回る未知の興奮が、足元を狂わせていく。
「さあ、入りなさい」
厳さんが重厚なドアを開け、私を室内に促した。
部屋の中は、革製のソファやクラシックな調度品で整えられた、落ち着いた空間だった。しかし、カーテンが厚く閉め切られているせいか、外の明るい太陽の光は遮られ、薄暗い空間には独特の濃密な空気が満ちていた。
「緊張しているね。まあ、そこに座りなさい」
修さんが優しく微笑みながら、私を大きなソファへと座らせた。彼はすぐに冷たいお茶を運んできてくれたが、それを一口飲んでも、喉の渇きと胸の鼓動は一向に収まらなかった。
「君のような綺麗な男が、あの公園で一人ぼんやりしているのを見かけてから、厳さんと二人でずっと話していたんだ。……あの子は、こっち側の素質がある、ってね」
修さんが私の隣に信じられないほどの近さで腰掛け、私の顔をじっと覗き込んできた。70歳とは思えないほど、その瞳は潤んでいて力強い。
「男色の経験は……ないんだろう?」
正面の椅子に深く腰掛けた厳さんが、タバコに火をつけながら、紫煙の向こうから問いかけてきた。
「はい……ありません。ただ、その、以前から……」
私は言葉を濁した。だが、言い訳など通用しないことは、二人の目を見ればすぐに分かった。経験はない。しかし、ずっと求めていた。私のその剥き出しの欲望を、二人の老紳士は見事に透視していた。
「可愛い人だ」
修さんが呟くと同時に、彼の温かい手が私の頬を包み込んだ。
ハッとして身を強張らせたが、逃げることはできなかった。修さんの顔が近づき、お茶の香りと、大人の男の匂いが鼻腔をくすぐる。そして、私の唇に、柔らかいものが触れた。
初めての、男とのキスだった。
驚きで目を見開いたが、修さんの舌が滑り込んでくると、脳裏が真っ白になった。激しく翻弄される中で、私の身体は生まれて初めて経験する快感に震えた。女性とのそれとは全く違う、荒々しくも包み込むような、雄としての濃厚な愛撫。
「ふむ、いい声で鳴くじゃないか」
いつの間にか立ち上がっていた厳さんが、私たちの様子を満足そうに見下ろしていた。彼の大きな手が、私のズボンの上から、すでに硬くなり始めているペニスを容赦なく掴んだ。
「あ、はぁっ……!」
情けない声が口から漏れる。65歳にして、私は完全に彼らの手の内に落ちていた。男に触られ、翻弄されることに、これほどの悦びを感じるなど思ってもみなかった。
「今日から君は、私たちの可愛い玩具だ。たっぷり可愛がってあげるからね」
厳さんの低い声が、まるで呪縛のように私の耳元で囁かれた。ここから引き返すことなど、もう絶対にできない。私は二人の妖しい魅力と、自らの内に眠っていた本能に、完全に身を委ねることを決意したのだった。
26/06/11 15:34更新 / 調教師の60代
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