連載小説
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見知らぬ夫
私の名前は、司(つかさ)というらしい。

「らしい」と曖昧にしか言えないのは、私に名前以外の記憶が一切ないからだ。自分がどこで生まれ、どんな風に歳を重ねてきたのか。自分の年齢さえも、思い出そうとする度に頭の奥を酷い頭痛が襲い、思考を強制的に遮断されてしまう。

真っ白な世界にいた私を、最初に呼んだのが俊(しゅん)という男性だった。

枕元に佇む彼が静かに教えてくれたのは、私の名前が司であること、そして私の年齢が70歳であるということ。何より驚いたのは、私と俊が、一般的に言う「夫婦」のような関係だったという事実だった。

(私は……男色だったのだろうか)

そんな戸惑いが胸を過ったが、ベッドから動けない私のすべてを、彼は嫌な顔ひとつせず、甲斐甲斐しく世話してくれた。彼曰く、私は不慮の事故で頭を強く打ち、それ以来ベッドの上での生活を余儀なくされているのだという。

男性同士の恋愛。それが一体どんなものなのか、今の私には想像もつかなかった。しかし、彼は私の体を優しく拭き清めるだけでなく、ベッドから降りられずオムツを穿いている私の、排泄の世話までをも熟してくれた。

時折、愛おしさを堪えきれないといった様子で強く抱きしめられることもあった。その腕に包まれるとき、不思議と嫌悪感は湧かなかった。むしろ、深い安らぎのようなものが胸に満ちていく。その温もりを感じる度、私たちは本当に夫婦だったのだと、確信に似た思いが芽生えていった。

「無理しないでいいよ。ゆっくり思い出していこう」

ベッドの上で必死に記憶の糸を手繰り寄せようとする私に、俊はいつも穏やかな声をかけた。彼が毎日作ってくれる手料理を口に運び、咀嚼する。そんな静かで温かい日々が数日と続くうちに、私の心には、彼に対する確かな恋心が灯っていた。

やがてベッドから降りられるようになると、俊が用意してくれた車椅子に揺られ、近くを散歩するようになった。

「あそこはね、よく二人で花見をした河川敷だよ」
「あそこの公園も、よく二人で歩いたね」

視線の先を指差しながら、俊は愛おしそうに二人の思い出を語ってくれた。けれど、どれだけ耳を傾けても、私の記憶の引き出しが乱されることはない。ただ黙って頷くことしかできない自分が、少しだけもどかしかった。

俊の献身的な介護と、私自身の懸命なリハビリが実を結び、やがて私は杖をつけばどうにか歩けるまでに回復した。

「無理は禁物だからね」

そう言って心配そうに見つめる俊を安心させたくて、私は常に彼の目の届く範囲で生活することを心掛けた。そしてついに、杖すらも不要になったある日のこと。私は彼を驚かせたくて、自分から声をかけた。

「……公園に、行かないか?」

その言葉を聞いた瞬間、俊の瞳に大粒の涙が浮かんだ。私の回復を、これほどまでに心から喜んでくれる人がいる。胸が熱くなった。私は泣きそうな彼の顔をじっと見つめ、その手を強く握りしめて散歩へと連れ出した。

歩き慣れたはずの道中で、私は胸に秘めていた言葉を口にした。

「僕はもしかしたら、このまま何も思い出せないかもしれない。……それでも、僕の側にずっといてくれるかい?」

半ばプロポーズのようなその問いかけに、俊は「嬉しい」と言って、ぽろぽろと涙を流した。私たちの関係は、こうしてまた新しく紡がれていくのだと、確かな予感に胸が震えた。

しかし、家に帰ってから一つの問題に直面した。
記憶のない私には、男性同士の「情事」がどういうものなのか、具体的な作法が分からなかったのだ。70歳という年齢を考えれば、そんな盛んなことをする歳ではないのかもしれない。だが、俊の顔を見る度に、私の身体の奥で熱い衝動が鎌首をもたげていた。

私は破裂しそうな恥ずかしさを必死に堪え、彼に向き合った。

「君とキスしたり、エッチをしてみたいんだ。だけど……僕にはどうやったらいいか分からない。変、かな?」

恐る恐る尋ねると、俊は弾かれたように顔を上げ、愛おしさが爆発したような笑顔を浮かべた。

「変じゃないよ! 僕たちは夫婦なんだから!」

その言葉に背中を押され、私たちは互いの唇を重ね合わせた。最初は、探り合うような初々しい重なりだった。

記憶がないというのは妙なものだが、私にとってはこれが人生で初めてのキスの感覚だった。それなのに、不思議と身体が馴染んだ動きを覚えていた。貪るように彼の唇を奪い、自然と口の中に舌を這わせる。それが当たり前の行為であるかのように。

口内に広がる彼の甘い味を意識しただけで、下腹部の興奮は抑えきれないほどに膨れ上がっていく。逸る気持ちに突き動かされるまま、私は俊をベッドへと押し倒していた。

「僕じゃ不慣れかもしれない。違っているところがあったら、教えて欲しい」

息を荒くしながらそう告げ、私は彼の愛おしい身体を愛撫し始めた。

這わせた舌で彼の唇を再度蹂躙し、そこから白い首筋、そしてきゅっと尖った乳首へと這わせていく。自分自身が、かつてないほど激しく興奮しているのが分かった。

狂おしい衝動のままに彼の下着を引き下ろすと、そこにはすでに熱く猛り立ったチンポがあった。私は迷うことなく、それを口に含んだ。

(これが、男の味か……)

脳を痺れさせるような雄の匂い。彼のチンポからは、溢れんばかりの我慢汁が分泌されていた。私はそれを、世界で最も尊い蜜であるかのように、愛おしく舌で味わい尽くした。
26/06/04 17:32更新 / 調教師の60代
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