連載小説
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本当の始まり
それまで散歩の一環として当たり前のように通っていたその公園に、私は再び足を運んでいた。田口にあのような惨劇を強いられて以来、恐怖のあまり一度も近づけなかった場所だ。
私はあの日と同じ曜日を選んで歩いていた。心のどこかで、もしかしたらまた田口に会えるかもしれない、という奇妙な期待を抱いていたことは否定できない。
(いや、私にそんな趣味があるはずがない。あれは一時的な気の迷いだ)
歩きながら、自分にそう言い聞かせ、必死にブレーキをかけようとする。しかし、現にこうして彼を求めて公園を彷徨っているという事実そのものが、私の中で眠っていた「別の自我」が完全に目覚めてしまったことを証明していた。

公園中を歩き回り、目を皿のようにしてあの巨体を探したが、一向に出会える気配はなかった。ただ、無情に時間だけが過ぎていく。
あんなにも恐ろしかった男なのに、今となっては、彼は私の閉ざされた人生の扉を壊すために神様が遣わした使者だったのではないか――そんな奇妙な妄想さえ頭をよぎる始末だった。
私は、彼に蹂躙されたあの公衆トイレにも足を踏み入れた。便器の前に立ち、用を足しながら、あの日の痛烈な記憶に深く思いを馳せる。私はいつの間にか、心のどこかで「またあの時のように、激しくやられてみたい」という狂おしい願望を膨らませていた。

だが、どれほど歩いても、田口の姿はどこにもなかった。
私は諦め、いつものベンチに腰を掛けて、再び濁った池の水を眺めていた。一体自分は何をやっているのだろうという、底知れない虚しさがこみ上げてくる。やはり、あの褌の匂いに狂わされたのは、一過性の精神の病のようなものだったのだ。そう結論づけて、この執着を終わらせようと自分に言い聞かせた。

背後から、静かに人の気配が近づいてきたのは、その時だった。
「……中山さんですか?」
かけられた声に、私の心臓がドキンと大きく跳ね上がった。
(彼だ。ついに彼が戻ってきたんだ!)
胸を躍らせ、待ち望んだ歓喜とともに勢いよく振り返った。

しかし、そこに立っていたのは田口ではなかった。
私と同年代か、あるいは少し上に見える一人の老人が佇んでいた。白髪を綺麗に整え、眼鏡の奥の瞳は穏やかで、上品な髭を蓄えている。仕立ての良い服を着こなした、体格の良い紳士だった。
お目当ての男ではなかったという落胆が押し寄せた。しかし同時に、ある激しい疑問が私を捉えて離さなかった。なぜこの老紳士までもが、私のことを「中山」と呼ぶのだろう。

中山とは一体誰なのか。この公園は、そういう人間が集まる場所なのか。
私はその真相を知りたいという誘惑に、どうしても抗えなかった。
「中山さんですか?」
重ねて問いかけてきた老人の静かな眼差しを見つめながら、私はついに、運命の引き金を引くように答えてしまっていた。
「……はい」

私がそう頷いた瞬間、老人の顔に物凄く嬉しそうな、破顔の笑みが浮かんだ。
「よかった。じゃあ、行こうか」
老人はそう言うと、まるで行き先を知り尽くしているかのように、私の手をそっと、しかし拒む隙を与えない力強さで引っ張っていった。
連れて行かれたのは、奇しくもあの日、田口に襲われたあの公衆トイレだった。
老人に手招きされるまま、薄暗い個室へと入る。ドアが閉まった瞬間、彼は私の身体を愛おしそうに、きつく抱きしめてきた。
あまりの急展開に、私は驚きで目を見開いた。一体何が起きているのかという戸惑いと、身体の奥底から湧き上がる「ついにこの時が来た」という弾むような歓喜。二つの複雑な感情が、私の中で激しく渦巻いていた。

老人は私の顔をじっと見つめると、熱を帯びた声で囁いた。
「物凄く可愛いよ」
その言葉の直後、彼の唇が私の唇を塞いだ。驚く私を置き去りにして、彼の滑らかな舌が、私の口内の奥深くへと滑り込んでくる。
この年齢になるまで、女性との数少ない形式的なキスしか経験のなかった私にとって、男から舌を入れられるなど生まれて初めての経験だった。
かつての私であれば、嫌悪感のあまり彼を激しく跳ね除けていただろう。だが、いま初めて口にする「同じ雄の唾液の味」に、私は目眩を覚えるほどの陶酔を味わっていた。抗うことなど到底できなかった。私は身を委ねるように、彼の広い背中に手を回し、しがみつくように強く抱きしめ返していた。

老人は満足そうに微笑むと、手早く上着を脱ぎ捨て、自身の乳首を舐めるようにと私に促してきた。
促されるまま、私は男の胸元に顔を近づけ、その突起を舌先でペロリと舐めてみる。
夏の暑さのせいだろうか。じっとりと滲む汗の味とともに、老紳士が纏う特有の香水の残り香、そしてその奥から放たれる濃厚な「雄の匂い」が、私の鼻腔を容赦なく突き刺した。
その瞬間、私の中で何かが弾けた。私は理性を失い、狂ったように彼の胸に舌を這わせ、貪り舐め始めた。
「おいおい、そんなに激しくされたら……」
老人が困惑混じりの声を漏らすが、私にはもう、この衝動を止める術など持ち合わせていなかった。

私はもっと、彼を形作る強い匂いを吸い込みたかった。匂いが一段と強く沸き立つ場所を探し、そのまま彼の脇の下へと貪欲に鼻を突き立てた。そして、皮膚にへばりつくようにして匂いを嗅ぎ、一心不乱に舌を滑らせていく。
普段の私であれば、同性の、しかも見知らぬ老人の汗ばむ肌を舐めたいなどと思うはずがなかった。しかし、今の私は違った。この身体を支配する同じ「雄」の濃厚な気配に、沸き立つ血が止まらなかった。

老人は荒い鼻息を漏らしながら、「気持ちいい、気持ちいいよ」と何度も掠れた声で呟いた。そして、私の白髪混じりの頭を、子供をあやすかのように優しく、何度もさすってくれた。
誰かにこうして頭を撫でられたことなど、一体いつ以来だろう。物心ついた子供の時以来かもしれない。男の大きな手のひらの温もりが頭頂部から伝わってくる。それが決して嫌ではなく、むしろ涙が出そうなほどに嬉しいことなのだと、私は生まれて初めて知った。

やがて老人は、自らのズボンと下着を一気に足元までずり下げた。
「もう、我慢ができないんだ……頼む」
彼の懇願するような声が響く。
目の前に、力強く、そして生命力に満ち溢れて昂った男の象徴が姿を現した。
(ここが、この人の一番雄の匂いが沸き立つ場所に違いない)
私はその匂いを一滴残らず吸い尽くしたいという強烈な飢餓感に突き動かされ、躊躇うことなく、彼の前に深く跪くのだった。
26/06/01 19:00更新 / 調教師の60代
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