連載小説
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凍りついた肉体
優しい言葉をかけられた明美さんは、私の中に「男」を見たのだろう。
気がつけば、私は近くの公園ともつかない薄暗い空き地へと誘導されていた。抵抗する間もなかった。突如として彼女の唇が私の口を塞ぎ、その体重で地面に押し倒された。
パニックになる私を組み伏せたまま、明美さんは私のズボンに手をかけ、ペニスを強引に引き出した。彼女の生々しい舌がそれを這う。四十歳を過ぎているとはいえ、男を狂わせる術を知る女性の肉体に、私の十代の若い身体は、本能的に反応してしまっていた。

彼女は満足げに笑うと、そのまま私の上に跨り、激しく腰を振った。
時間にして、五分にも満たない出来事だった。私はその短い時間の中で、初めてのキスも、大切に持っていた童貞も、すべてをこの泥酔した年上の女性に文字通り「奪い去られて」しまったのだ。
我に返った私は、覆い被さる彼女の身体を必死に突き放し、衣服を乱したまま、逃げるようにその場を後にした。

家になだれ込み、すぐに洗面所に駆け込んだ。口の中にまとわりつく彼女の味、鼻腔にこびりついた安物の化粧の匂い。それらを掻き消したくて、私は口紅のついた唇がもぎ取れるほどの力で、何度も何度も強く拭った。
風呂に入り、皮膚が赤くなるまで身体を洗い清めても、あの生々しい感触と匂いは皮膚の裏側に張り付いて離れない。底知れない嫌悪感が、私の全身を支配していた。

翌日、何事もなかったかのように高校へ向かった。いつも通り、密かに憧れていた女子生徒と話をする。しかし、昨日まで胸の奥に確かにあったはずの淡い恋心は、ガラスがひび割れるように冷め切っていた。
その日の放課後、彼女から声をかけられ、一緒に帰ることになった。夕暮れの道すがら、彼女は照れくさそうに私に顔を近づけ、キスを求めてきた。
その瞬間、私の脳裏にあの明美さんの歪んだ笑顔と、むっとする匂いがフラッシュバックした。猛烈な吐き気がこみ上げ、私は彼女を置き去りにして、またしても逃げ帰ってしまった。
その後、その彼女と形ばかりの交際を始めることにはなったが、関係が深まることはなかった。彼女から身体の関係を求められても、私のペニスはまるで石のように冷たく、ピクリとも動じなかったのだ。十代後半という若さで、私は決定的な女性不信に陥っていた。

それから長い年月が流れ、明美さんのことなど記憶の彼方に追いやったつもりで三十代に突入した。私はただ、過去を忘れるように仕事に明け暮れていた。
ある時、同僚の女性から誘われ、二人で食事をする機会があった。互いに良い雰囲気になり、いざホテルのベッドで身体を重ねようとした、そのタイミングだった。彼女の身体から漂う化粧の匂いが、私の脳の奥底に眠っていた「あの夜の記憶」を呼び覚ました。強烈なフラッシュバック。私のペニスは完全に萎縮し、いよいよ不能となった。

その日を境に、私は自らの人生から「誰かと結ばれること」を完全に諦めた。妻を娶ることも、女性と肌を合わせることも、私には不可能なのだと思い知らされた。
幸い、ひとりで自慰をすれば欲望を解放することはできたため、私はそれで自分を納得させるしかなかった。仕事が上手くいき、出世するにつれて、周囲からは当然のように見合いや結婚を勧められた。だが、いくら私が努力しようとしても、あのトラウマが足枷となって私を暗闇に引きずり戻す。結局、定年を迎えるその日まで、私は二度と女性と深い関わりを持つことはなかった。

そんな偏った人間関係しか築けなかったツケは、老後に回ってきた。定年を迎えた時、私の周りには「友人」と呼べる人間は誰一人として残っていなかった。私はただ、このまま孤独な老後を送り、誰にも看取られることなく一人で天に召されていくのだろう――そう覚悟していた。

誰の目も気にしなくていい一人暮らしのせいで、私の体型はひどく崩れ、お腹は丸々と突き出ていた。髪の手入れなどしたこともなく、白髪染めをすれば少しは若返るのだろうが、そんな気力も湧かない。ただ白髪交じりの頭を放置していた。
それでも私が毎日公園へと足を運ぶのは、心の底で、ほんの少しでもいいから他人の温もりに触れていたいと願っていたからだと思う。見ず知らずの散歩人と交わす「こんにちは」という挨拶や、目の前を走り回る子連れの家族の微笑ましい姿。それらを眺めていると、胸の奥がじんわりと温かくなると同時に、手に入らなかった人生への羨望がチクリと痛んだ。

その日も私は、いつものように公園のベンチに腰掛け、ただ時間がすり減っていくのを待っていた。
すると、不意に影が差した。見上げると、私と同世代か、あるいは少し年上に見える一人の男性が立っていた。男は私の顔を覗き込み、怪訝そうな、しかし確信を帯びた声で話しかけてきた。
「あの……失礼ですが、中山さんですか?」
「いえ、私は山口ですが。人違いじゃないですか」
私は怪訝に思いながら、人違いであることを告げた。しかし、その男は謝る風でもなく、一向にその場から引き下がる気配を見せない。じっと私を見つめるその視線に、私は背筋が薄寒くなるのを感じた。
(何かの宗教か、質の悪い訪問販売の勧誘だろうか……)
内心で急速に不安が膨れ上がり、私は関わり合いを避けるため、男から逃げるようにその場を立ち上がり、公園の出口へと歩き出そうとした。
26/06/01 18:59更新 / 調教師の60代
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