連載小説
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傲慢な重鎮
週に一度ハッテン場に足を運ぶだけの、起伏のない生活。そんな日々も三年を過ぎると、いよいよ毎日のつまらなさが身に染みるようになり、私は次第に外へ出ることさえも億劫になっていた。

「これでは駄目だ。生活にメリハリがないから、余計につまらなくなるのだ」

そう思い至った私は、再び仕事を探してみることにした。
とはいえ、この年齢でまともな仕事があるわけもない。今更どこかの会社という組織に入ったところで、周りとうまくやっていける自信もなかった。そんな時、知人から「シルバー人材センター」という存在を教えてもらった。私のような高齢者でも、登録すれば仕事を紹介してもらえるらしい。幸い生活に困っているわけではなかったが、私は日常のメリハリだけを求めて、センターの門を叩いた。

そこで紹介されたのは、とあるマンションの管理人だった。
一日の勤務は四、五時間程度。指定されたマンションの共有部分を掃除したり、見回りをしたりするだけの簡単な業務で、この年齢の求職者には非常に人気のある職種だという。私は運が良かった。たまたま人手不足の物件があったため、すぐにその人気職に就くことができたのだ。

赴任したマンションには私と同年代の女性管理人がおり、最初の数日間で仕事のノウハウを丁寧に教えてもらった。彼女と週の半分ずつを分け合い、交代でシフトに入る生活が始まった。

半年も経つ頃には、私はすっかり仕事にも慣れ、住民たちとも良好な関係を築けるようになっていた。
マンションという小さな共同体には、実にあらゆる人間が暮らしている。若い夫婦もいれば、私と同じような独り身の老人もいた。中には日中が暇で、私を話し相手にして熱心に世間話をしてくる住人もいた。

しかし、良い人が大半を占める一方で、いわゆる「性格に難がある」と言わざるを得ない住人も、やはり数人は存在した。
管理人という立場上、私は誰に対しても分け隔てなく接することを求められる。だが、住人の中には「自分を最優先に扱え」と言わんばかりの頑固な態度を取る者がいた。その中でも、ひときわ異彩を放っていたのが、このマンションの「重鎮」とも目されている、中村という老人だった。

中村は私と同年代か、あるいは二、三歳ほど年上だろうか。恰幅が良く、見事な白髪に眼鏡をかけたその風貌は、ゲイの世界で「枯れ専」と呼ばれる人間が見れば、確実にその容姿だけで一発で誘いをかけるに違いない、と思わせるほどのダンディな良さを持っていた。

しかし、中身は最悪だった。中村は元々大手企業の重役だったらしく、絵に描いたように傲慢な男だった。マンションの管理人などという存在を、心のどこかで見下し、卑下しているのが態度にありありと表れていた。

彼は上層階に住んでいたが、自分のフロアの廊下にゴミが一つでも落ちていれば、目くじらを立てて物凄く口うるさく怒鳴り込んでくるタイプだった。
普通なら恐縮するところだろうが、私はこれまでの人生、数々の男たちを相手にしてきた身だ。この手の傲慢なタイプに屈するつもりは毛頭なく、常に毅然とした態度で接していた。それが中村にとっては面白くなかったのだろう。自分の思い通りに動かない私を、彼はまるで目の敵のようにし始めた。

「これだから最近の管理人は……」

いつものように小言が始まり、散々説教をしては、満足したように自室へと帰っていく。きっと中村は、世間や家庭での日頃の不満を、言い返してこない私にぶつけて発散しているのだろう。私は中村に対して、怒りというよりは「呆れ」の感情が勝っていた。元の役職がどれほど偉かろうが、退職してしまえばただの老人だ。何故ここまで無関係な相手に対して文句を言えるのか、不思議で仕方がなかった。

それでも、中村から日々浴びせられる理不尽なストレスは、私の心の奥底に澱のように溜まっていった。
(……いつか、この傲慢な鼻へし折って、私の手で徹底的に調教してやろうか)
かつて数々の男を狂わせた「Sタチ」の血が、中村の横暴を見るたびに、妄想の中で鎌首をもたげていた。

そして、夏を目前にしたある日。私の中で何かが完全に爆発する事件が起きた。

その日も私は、いつも通りに淡々と管理人としての仕事を全うしていた。しかし中村は、朝からいつものように重箱の隅をつつくような小言を私に言い続けていた。それ自体は日常茶飯事だったので、私は右から左へ受け流していたのだが、中村の理不尽さはそれだけでは収まらなかった。

彼はその日、外へ買い物に出かけた際、マンションの共用傘立てから誰かに傘を持っていかれてしまったらしかった。なんと彼は、そのことに対する怒りを私にぶつけてきたのだ。
「お前がしっかり見張っていないから、私の傘が盗まれたんだ!」

あまりにも傍若無人すぎる言いがかりに、私は心の底から呆れ果てた。だが、中村の興奮は収まらない。私が彼の中村の住む階層の廊下を掃除していた時、彼はわざわざ部屋から出てきて、私の前に立ち塞がった。そして、信じられない言葉を私に浴びせてきたのだ。

「管理が行き届いていないのはお前の怠慢だ。ほら、私が悪かったと、ここで土下座しろ!」

あまりの要求に、私は言葉を失った。それだけなら、ただの狂人の戯言として無視すれば済む話だった。しかし、中村は私の沈黙を拒絶と捉えたのか、さらに顔を真っ赤にして、脅し文句を重ねてきた。

「土下座をしないなら、今すぐシルバー人材センターに直訴して、お前なんか一発でクビにしてやるからな!」

クビ――その言葉が、私の脳内で冷たく響いた。
その瞬間、中村の傲慢な態度に耐え続けていた私の理性の糸が、音を立ててブチリと切れた。私の胸の中で、長らく眠っていた狂暴な加虐欲が、一気に燃え上がるのを感じていた。
26/05/29 14:09更新 / 調教師の60代
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